ダメだったことを指摘するのではなく、次どうするべきかを考えることをアドラー心理学では「目的論」としています。目的論とは「すべての行動、感情には目的がある」という考え方や「どこから来たかではなく、どこに向かうか(目的)が重要である。」という発想のことです。

実績多数のメンタルコーチ・平山あきお氏と、慶應義塾大学大学院教授・前野隆司氏が、実践的に「目的論」を使う方法について具体例を交えてお伝えします。

※本記事は、平山あきお/前野隆司:著『アドラー心理学×幸福学でつかむ! 幸せに生きる方法』(ワ二・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

J・Y・パークさんの勇気づけが参考になる 

平本 私はスポーツ関係にもよく関わるんですが、今でも学校の部活には「選手を追い込んで、困難を乗り越えさせたほうが強い子になる」という方針で指導している監督が少なからずいるんです。どう思われますか?

前野 両者に信頼関係があって、意欲のある子ならば原因論でキツくやっても良いんでしょうね。さらに高い能力があれば、その育て方ですごく伸びることがある。その一方で、どこかの段階で勇気をくじかれて辞めてしまった、その他大勢がいるはずです。でも「スポーツの世界で成功できるのは、もともと1000人に1人ぐらいのごく一部だから仕方ない」と考えることもできますから、厳しく追い込んで、その一部を選別できればいいという発想になったのかもしれませんね。

平本 なるほど。そこでこぼれ落ちる選手は仕方ないんだ、みたいな。 

 前野 1人を選別するために999人が勇気をくじかれて、次なるチャレンジに対して自信の持てない人間になるのだとしたら、ものすごい損失だなと思います。

平本 それをもっと強烈にしたのが、アイドルの世界ではないでしょうか。ごくごく一部を選別する前提なので、徹底的にダメ出しを続けて、最後まで生き残った人だけがデビューできる仕組みになりがちです。そうなれば、同じグループ内でも、いがみ合いが起こりやすくなるでしょう。お互いの足を引っ張るようなこともしてしまうかもしれない。ところがNiziUを生んだJ・Y・パークさんは徹底的に勇気づけのアプローチをしています。

前野 ああ! そうですね。あのプロジェクトは非常に面白いし、感動的ですよね。友人に勧められて何度も見ました。

平本 落とすにしても、将来、その子が幸せになるような言い方をしている。J・Y・パークさんは、アドラー心理学の勇気づけの天才だと思います。

前野 たしかに言い方も、深い共感を示すところも、まさに同じですね。順位ではなく「成長したね」という喜び方も似ています。そして、なによりもアイドル候補の子たちが一生懸命やっているときの、うれしそうな表情が印象的でした。彼は表情などのボディランゲージでも、相手を勇気づけているんでしょうね。

▲J・Y・パークさんの勇気づけが参考になる イメージ:Fast&Slow / PIXTA

「それはダメです」は負の連鎖の始まり

目的論は、日常生活のさまざまなシチュエーションで活用することができます。まだまだ社会の大半は、原因論の論理で動いていますから、今、うまくいっていない部分に目的論というアプローチで関わることには大きな意味があるはずです。ここからは、目的論の実践法について、具体例を紹介しながら解説します。 

職場で目的論を実践しようとする人からよく相談されるのが、原因論の上司です。

チームをリソースフルにしようと、スタッフに「君はどうしたい?」「そうなんだ。じゃあ、その目標に向かうためにどうしようか?」と目的論で関わっているのに、上司が「そんなことより、この前みたいなミスは二度と許さないからな」と原因論で介入してしまうので、台無しになってしまう。 

似たような経験をお持ちの方は少なくないのではないでしょうか?

▲この前みたいなミスは二度と許さないからな! イメージ:PIXTA