ダメ出しばかりの経営者に「目的論」で関わる

平本式で学ばれた人が、実際に体験したケースを紹介しましょう。

その人が、本社から出向した先の子会社の社長は、非常に仕事のできるカリスマ経営者でした。しかし、いつも現場で社員のダメ出しをしており、若い社員でも容赦しません。そのため新人の大半が続かず、辞めてしまっていたのです。

「原因論でやっているんだな」とすぐに気づいたそうですが、最初はうまく対応できなかったと言います。

そして、しばらくして気づいたそうです。

「原因論をしてしまう人に、自分も原因論で関わろうとしている」

つまり、ダメ出しをしている人(社長)に対して、自分も「そんなふうにダメ出しばかりしているからダメなんですよ」とダメ出しをしてしまっていたわけです。これは、その場に関わる人全員が、原因論から抜け出せなくなる悪循環、負の連鎖の典型です。 

◆目的論ステップ0=「主観主義で相手に寄り添う」の導入

では、どうすれば良いでしょう。

目的論の問題解決は以下の順です。

  • ステップ1「強化したいところ(悪いところの反対)を決める」
  • ステップ2「指摘する」

しかし、仮に「若い社員を褒めているところ」を指摘しようにも、その機会がありません。そこでいわば、ステップ0として「主観主義を使って、相手の不平不満に寄り添う」ことにしました。 

たとえば、社長が「本当にあいつはダメだ」と言ったら、「ああ、そうなんですね」と共感して「彼女のどこがダメなんですか?」と教えを請う形で聞きます。

「あれがダメ」「ここが甘い」「これができない」と挙げるようなら、「そうなんですね」と1つずっ共感し、受け入れながら聞く。もちろん反論はしません。

相手が不満に思っているところをスッキリ言い尽くすまで聞いたうえで、こう質問したんです。

「彼女の悪い点をたくさんご指摘いただきました。それで社長は将来、彼女にどんなふうになってほしいんですか?」

「いや、たしかに〇〇については適性があると思う。可能性はあるんだから、その強みを活かせば、もっと活躍できるんだ」 

このように、不平不満やグチを言い尽くして本音を出し切ると「どうなってほしいか」が出てきます。つまり、それまで意識を向けていた部分(部下の悪いところ)をすべて出し切ることで、意識が他の部分(部下の良いところや可能性)に向いたのです。 

◆目的論のスタート

ここからいよいよ目的論のステップで関わります。部下の良いところを指摘してくれた社長に対し、こう聞いたそうです。

「なるほど、それはすごく良いですね。彼女にどんな言葉をかけたら、社長の期待するように動いてくれますか?」

「それは、まず全然できてないところを直せるようにもっと注意しないと」 

返ってきたのはまた原因論でした。これでは元に戻ってしまいます。そこで共感したうえで、すかさず、主観主義でこう問いかけました。

「なるほど。社長があの子の立場だったら、そう言われてやる気は出るものですか?」

「まあ、たしかにあんまり注意ばかりされたら、やる気以前に落ち込むかもしれないな」

「そうなんですね。では、彼女の立場で上司にどんなふうに言われたら、社長の期待に応えようとやる気をもってもらえますかね?」

「そうだな。『〇〇と△△は、うまくできているからその強みは活かして、あとはもっとこうしたら、絶対に成果が出せると私は信じている。だから自信を持ってやりなさい』みたいな感じかな。これなら落ち込まないし、やる気も出るんじゃないか?」

「ああ、それは良いですね。社長、教えていただき、ありがとうございます」 

こんな感じでお礼を言ったそうです。 

▲「強みは活かして自信を持ってやりなさい」 イメージ:PIXTA

このやり取りは「部下が上司に相談をしてアドバイスをもらった」という形をとっていますが、じつは社長にコーチングをしているのと同じです。しかも、この人は目的論で社長に関わりつつ、同時に、社長にも目的論で社員に関わってもらえるように働きかけたとも言えます。 

こうしたやり取りをしばらく続けていくうちに、原因論の社長はいつの間にか目的論の人に変わっていたそうです。