ウルムチ出身のウイグル人であるムカイダイス氏と、中国ウオッチャーの福島香織氏による特別対談。今回は、日本人がウイグル問題に関心をもたない原因のひとつであるテレビ、そしてアラブ・イスラム世界に浸透する中国の美女工作の脅威について話します。

▲出典:『ウイグル・香港を殺すもの』

日本人が気づいていないテレビの恐ろしさ

ムカイダイス 私個人の話でも、自分の弟がどこにいるかわからないんですね。実際、私たちウイグル人の身の上にはいろんなことが起きています。ウイグル人の証言者たちだって、日本人の皆さんにとっては「遠くに住んでいる、よく知らない人たち」っていう感覚かもしれませんが、私たちにとっては「ごく身近で信頼できる、社会的にも常識ある人たち」なんです。

だから、日本の方たちにも、彼らをもうちょっと身近な人間だと思ってほしい。同じ人間として、身近な人間の話として、彼らの声にも耳を傾けてほしい。そういう同じ人間同士の悲しみや苦しみを、なんとかしてあげたいという気持ちが、人権の基本であり、民主主義の基本だと思うんですね。

でも、そのことを日本でいくら訴えても、なぜかギクシャクした、ヘンな空気になってしまいます。私にはそれがよくわからないんです。日本人がものすごく親切で優しいっていうのはよく知っているんですが、ウイグル問題に限らず、こういう話になるとなぜか「面倒臭いことには関りたくない」という雰囲気になります。

福島 よくわかります。確かにそういう日本人は多いですよね。同じ日本人が被害を受けている北朝鮮の拉致問題ですら、無関心な人が多いですから。

ムカイダイス 福島先生はよくご存じだと思いますが、私たちアジアの人間にとって日本人は“誇り”なんです。でも、私たちアジア人が思い描いていた日本、私たちが憧れている日本を、なぜか日本のマスメディアが日本人自身に忘れてほしがっている。私は日本に来たときにそう感じました。日本人が「日本人」でなくなるよう、マスメディアが“教育”しているようにも思えます。

たとえば、日本のテレビを何日か見ていたら、醤油をどうやって節約するかとか、こんな生活に役立つ裏技や豆知識があるとか、洋服の上と下をどうやって合わせるとか、そういうものばっかりじゃないですか。今の日本のテレビは、思考を停止させる仕組みになっています。それが恐ろしくなったから、私、テレビを捨てました。

▲テレビは思考を停止させる? イメージ:PIXTA

いったい誰が、アジアの誇りであった日本を、誰も立ち向かえなかった日本を、内側からこんなふうにしたんでしょうか。アメリカ? 中国? 何より肝心の日本人が、そのことに気づいていないことがショックでした。

福島 ひと昔前なら、戦後のアメリカの影響力というか、アメリカが日本を小さく弱くするために、メディアを通じた愚民化政策の影響があったと思います。今はむしろ、日本人が自ら縮こまってしまっているというか、楽な方向に流れちゃっているんじゃないかな。考えないことって楽ですからね。長い経済の低迷とかいろいろあってしんどくなったって言ったらおかしいですけど、その楽な方向に結局は流れていってしまったと。

ムカイダイス そうやって楽なほうにばかり流されていってしまうと「国があるのは“当たり前”ではない」ということを、みんな忘れてしまいます。楽な道ばかり選んでしまうと、いつかは日本もウイグルみたいになるかもしれません。