2021年1月、中国・新疆の報道官の発表が大きな波紋を呼びました。少数民族ウイグル族らを対象に実施していた、いわゆる「再教育」や「職業訓練」が2019年10月に終了したと主張したのです。そして、ウイグル族が強制収容されていたとの批判には「一連の措置はテロ対策の一環だ」と訴えて正当化しました。ジャーナリストの福島香織氏に、再教育とは何か、そして中国がチベット仏教に対して行った弾圧について聞いてみました。

※本記事は、福島香織:著『ウイグル・香港を殺すもの - ジェノサイド国家中国』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

党関係者から一般庶民に広がった“再教育”

▲新疆ウイグル自治区ウルムチの監視カメラ 出典:PIXTA

中国当局は、ウイグルの再教育施設に関して「あくまでも“過激派宗教”に染まった人々が“正しい中国人の道”に戻るように教育し、社会復帰を支援するための施設だ」と説明しています。

しかし、そこがナチスの強制収容所に勝るとも劣らない過酷で絶望的な監獄であることが、2018年頃から海外在住のウイグル人記者や、人権団体の調査・告発で明らかになってきています。

繰り返しますが、中国のウイグル人口1100万人のうち、少なくとも延べ100万人以上がこの収容所に収容され、“再教育”という名のもとに虐待や洗脳、拷問や性暴力などを受けているというのです。

収容されているウイグル人たちはムスリムではありますが、決して原理主義者(中国がいうところの「過激派宗教」)ではありません。どちらかというと異文化や異教徒に対しては寛容な人たちです。だから海外でビジネスをしたり海外留学したりするのです。

職業技能教育研修センターができた当初、“再教育”のターゲットにされたのは、ウイグル人のなかでも共産党員・公務員ら中国共産党の体制側に属する人々や、中国共産党指導下のイスラム教組織の幹部といった人々でした。

共産党の規約では、党員が信仰をもつことを禁止していましたが、実際のところ、ウイグル人の党員や公務員がイスラム教徒であるケースは珍しくありません。

まず2014年7月、新疆の党委員会統一戦線部・組織部から、地域の共産党員・共青団員・公務員に対して、イスラム教の信仰禁止・ラマダンヘの参加禁止・モスクでの礼拝禁止の徹底が通達されました。

これを受けて、当時の新疆各地では「アホン」と呼ばれるムスリムの宗教指導者が、祭祀の途中で突然連行されるなどの事件が発生するようになりました。彼らは再教育施設に入れられて、自分たちの行いが党規約や法律に違反しているなどと自己批判させられていたことが、中国共産党中央党校の学術リポートのなかで“成果”として記されています。

このように、最初はウイグル人のなかでも共産党に関係する人々が、“再教育”のターゲットにされていたのですが、その矛先がウイグルの一般庶民に向かうのに、それほど時間はかかりませんでした。

とくに2016年8月29日、新疆ウイグル自治区の書記に「酷吏(悪代官)」として知られる陳全国が就任して以降の“再教育”は、苛烈を極めるものになっていきます。