陳全国のチベット仏教弾圧の“功績”

陣全国は「習近平の三大酷吏(こくり)」の筆頭と言われています。「三大」といっても、陣全国の苛烈さは他の2人が裸足で逃げ出すと言われているほど圧倒的であり、泣いている子に「陳全国が来るよ」と言えば泣き止む、というジョークがあるくらいです。

陳全国は、習近平の強い推挙で新疆ウイグル自治区の書記に就任しました。習近平がそこまで陳全国を気に入っていた理由は、それ以前に彼が務めていたチベット自治区の書記時代の“功績”があったからです。

陳全国がチベット自治区書記だった2011年8月から2016年8月までの期間、チベットは数字上、目覚ましい経済発展を遂げています。2012年のGDP成長率は前年比11.8%、2013年は12.1%、2014年は12%、2015年は11%と4年連続2桁成長を実現しました。とくに2015年は中国で全国的に景気の落ち込みが激しかった年なのですが、なんとチベットのGDP成長率は全国1位を記録しています。

さらに、チベットの“治安”も陳全国が書記になったことで安定したと評価されました。陳全国がチベットでやったことをシンプルに言うなら「チベット仏教の中国化」です。陳全国はチベット仏教に対する徹底的な管理体制を導入しました。

大量の共産党員を寺院や村々に派遣して、内部からの統制・監視を強化するシステムをつくったほか、寺院に対しては“九有政策”と呼ばれる9つの物を常備するよう義務付けています。その9つの物とは、指導者の肖像・国旗・道路・水道・電気・通信設備・テレビ/ラジオ・新聞・書店です。

九有政策の目的は、チベット寺院の生活を便利で豊かにすることで、チベット仏教の厳しい修行を世俗化させ、共産党が宗教をコントロールしやすくすることにあったとされています。

また、陳全国は敬虔なチベット仏教聖職者に“再教育”と称して、異性関係を強要したり、ダライ・ラマ14世を批判させたり、寺院でマルクス・レーニン主義の学習を義務化したりもしました。

▲ダライ・ラマ14世 出典:ウィキメディア・コモンズ

これに絶望したチベット僧侶や尼僧、信者たちは次々と抗議の焼身自殺を図るようになり、国際社会に衝撃を与えました。

チベット仏教の僧侶や尼僧、信者らの焼身自殺は、2008年3月のラサの騒乱に対する中国当局の武力鎮圧事件以降、10年間で150人を超えていますが、陳全国の恐怖政治が彼らをいっそう追い詰めたといわれています。

こうした陳全国の“手腕”を習近平は高く評価し、2014年のウルムチ駅での「暗殺未遂事件」以降、彼が最も恐れるようになった、新疆ウイグル自治区の“不穏分子”を殲滅することを陳全国に期待したというわけです。

▲2014年のウルムチ駅爆破事件 (福島氏所有写真)

その結果、陳全国は2016年8月に新疆ウイグル自治区の書記に抜櫂され、2017年秋の第19回党大会では政治局委員入りするという急出世を遂げたのです。