中国が行っている残酷な“組織的”児童虐待
中国当局の狙いは、ウイグルの徹底した「中国化」です。中国当局は、ウイグルの大人たちを再教育施設で“洗脳”して中国化しながら、ウイグルの子どもたちに中国化教育を強制すれば、きわめて短時間でウイグル全体を中国化できる(=ウイグルの価値観・伝統・文化を完全に消し去ることができる)と考えています。
一方、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、子どもたちの孤児院への“強制収容”について法的根拠がなく、しかも中国が批准する国連の『児童権利公約』の序文にもある「家庭とは児童の成長と幸福のための自然環境」という定義にも背く、と批判しています。
ひどいことに、あるウイグル人がヒューマン・ライツ・ウォッチに証言したところによると、親がいても子どもを孤児院に収容するケースもあるそうです。
たとえば、ある10歳の児童は、父親が「再教育」を受けていたため、母親と親族と一緒に暮らしていたのですが、当局に“保護”され、孤児院に収容されてしまいました。母親は週に一度、短時間の面会のみ、当局の監視下で許されるという状況でした。
また、新疆南部の大家族の5~15歳の子どもは、親のいる・いないにかかわらず、孤児院に収容されているともいわれています。
親がほとんど“言いがかり”のようなかたちで再教育施設に収容され、その行方がわからないだけでも、幼い子どもにとってはショックなことなのに、今度は馴染んだ家から連れ去られて孤児院に隔離され、祖父母や親戚など頼りになる身近な大人たちとも会えなくなってしまうのです。
子どもに対して、これほど残酷な精神的虐待があるでしょうか。これは児童福祉の建前を使った子どもに対する“洗脳教育の強制”であり、特定の民族に対する迫害であり、きわめて残酷で組織的な児童虐待だといえます。
“農場の家畜”のように扱われる孤児院の子どもたち
ウイグルの家族から子どもを隔離する政策は「寄宿学校」の増加というかたちでも表に出てきています。
孤児院は両親が死亡、あるいは失踪している子どもを収容する施設です。前述の通り、孤児院が子どもの養育権を親族から強制的に取り上げる行為は、いちおう法的には認められていません。しかし「寄宿学校」なら、両親が健在でも子どもを収容することができます。
AP通信(2018年9月21日)によれば、中国で少数民族言語しか話せない子どもたちを“教育”するための寄宿学校が1000以上つくられており、子どもたちに対して徹底的・強制的に漢人教育が行われているそうです。
AP通信が取材した、イスタンブールの亡命ウイグル人は、2014年に9歳の子どもを強制的に寄宿学校に入学させられたといいます。
週末は帰宅が許されていましたが、病弱な子どものことを母親が心配して、一度だけ学校に様子を見に行ったことがありました。すると、その学校は、窓に鉄格子がはめられ、家族も教室に入ることが許されなかったそうです。
またラジオ・フリー・アジアが新疆南部の孤児院関係者に取材をしたところ、孤児院には子どもが多すぎて、まるで“農場の家畜”のように柵で仕切られたスペースに押し込まれている、という証言がありました。
孤児院は「子どもの福祉」という名目で、大量の寄付金・支援金を得てはいるものの、それは子どものためにはほとんど使われていないようです。食事も、週に一度だけ肉類が出されるくらいで、ほとんどがおかゆである、などの問題が指摘されています。
もう一点補足すると、ウイグル人の父親が再教育施設に収容され、若い妻と幼子が家に取り残されている家庭には、漢族男性の公務員や党員が「お世話係」と称して家に上がり込み、いつの間にか父親の座に居座ってしまうケースもあるそうです。
このように新疆の再教育政策は、ウイグル人の大人を「再教育」の名のもとに強制収容し、ウイグル人の子どもたちを「福祉」の名のもとに隔離し、ウイグルの伝統である大家族を分断し、大人にも子どもにも“洗脳”を行い、女性には不妊を強制しています。
つまり、その実態はウイグルの宗教・伝統・文化の継承を断ち、ウイグルを「中国化」してウイグル人そのものをこの世から消し去ろうという、一種の“民族浄化”プロジェクトなのです。