先日、ニューヨークの国連本部で開催された「SDGモーメント(持続可能な発展目標)」に出席した韓国の文在寅大統領。自身が任命した「未来世代と文化のための大統領特別使節」であるBTSを連れ立って出席し注目を集めたが、肝心の米韓首脳会談は今回、行われることはなかった。現在の米韓の関係性はどのようになっているのか? 朝鮮報道と研究の第一人者で、日本の朝鮮半島報道を変えたことでも知られる重村智計氏に語ってもらった。
※本記事は、重村智計:著『絶望の文在寅、孤独の金正恩 -「バイデン・ショック」で自壊する朝鮮半島-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
文在寅の「バイデン・ショック」
2020年の米大統領選は、文在寅に「バイデン・ショック」を与えることになった。
同盟国との伝統的な関係を重視せず、アメリカにとっての同盟国である日本と韓国の関係悪化も放置していたトランプ政権の期間、文在寅は徹底した「反日政策」をとり、日韓関係はこれ以上ないほど冷え込んだ。
だが、バイデンは同盟関係を重視する。強大化し覇権を狙う中国、今や核保有国となった北朝鮮と対峙するには、日米韓の連携が必要だ。そう考えるバイデンは、文在寅にも日本との関係改善を求めた。
さらに、トランプのアメリカ外交においては、出しゃばってトランプから嫌われ、大統領補佐官のボルトンからは「韓国は米朝を騙した」と言われもしたが、それでも文在寅は米朝のあいだを取り持つ役割を担ったと誇示した。
ハノイでの米朝会談前の電話で金正恩を激怒させて、米朝双方から疎まれることになったが「米朝指導者の仲介者」との姿勢を見せることで、国際社会に存在感を示すことに成功した。
だが、バイデンは中身のない米朝会談は行わない、としている。これでは韓国の出る幕
がない。
「日本より先にバイデンと」お笑い種になった韓国外交
2020年11月 3日に行われた選挙で、バイデンの大統領選出がほぼ確実になると、文在寅は慌てた。トランプ再選を期待していたうえに、バイデン陣営の高官との人間関係、パイプが全くなかったからだ。
かつて、米民主党のクリントン政権時代に駐米韓国大使だった韓昇洙(ハン・スンス)は、敗北した共和党政権高官たちを大使公邸に招き、激励したことがあった。この「外交配慮」が奏功し、次のジョージ・ブッシュ(子)政権では「最も信頼できる韓国人」と評価され、外相になった。
韓国側は当時、金大中政権だったが、共和党のブッシュ政権とは全くパイプがなかったため、対米外交を韓昇洙に全面的に頼ることになった。
だが文在寅政権には、韓昇洙のような政治家も外交官もいない。文在寅が慌てたのは
他でもない、当選祝いの電話をかけようにも、連絡するすべがなかったのである。
「なんとしても、日本の菅義偉首相(当時)より先にバイデンと電話会談したい」
それが文在寅の希望だった。「日本より先にバイデンと電話できるよう、手はずを整えろ」と大統領府の外交担当補佐官と外務省に命じた。だが、それは国際常識上、ありえないという感覚さえ、文在寅は持っていなかった。
また、命じられた側近や部下たちも「そんなことは無理ですよ」と大統領を諭すことはできなかった。当時、外相だった康京和(カン・ギョンファ)も、大統領の指示に混乱したことだろう。
そもそも康京和は、この時点ですでに更迭が噂されていた。そのうえでの無茶振りだ。大統領の命令とはいえ、自身もバイデン陣営にツテはない。それでもなんとかするしかない、とこちらも大慌てでワシントンに飛んだ。
誰が見ても、目的はバイデン陣営の高官就任予定者たちとの面会だった。だが、バイ
デン勝利が確実となったとはいえ、2021年 1月20日まではトランプが政権を担う。
外交もトランプ政権が行う。トランプがまだ在任中にもかかわらず、韓国の現役外相がバイデン政権の高官に接触するのは外交儀礼に反しており、現職大統領のトランプ、あるいは国務長官のポンペオに対する非礼というほかない。康京和は「韓国の外相には外交感覚がない」と、ワシントン中の笑いものになった。
韓国の新聞や通信社が報道するところによれば、結局、康京和は民主党の議会関係者には会ったものの、バイデン陣営の要人には会えず「失敗に終わった」という。文字通りの「お笑い韓国外交」というほかない。