海と山の結婚。めくるめくディテールの宇宙へ・・・

前置きが長くなってしまいました。今回取り上げる作品は、海から離れて、雄大な北イタリアの山中にそびえ立つ「コルテ・ディ・カドーレ教会」です。

 

カルロ・スカルパは既存建築の改修を得意としていますが、住宅などを除くと、この教会は数少ない見学できる新築作品です。また、スカルパのなかでも大きな空間を持ち、大学の友人であるEdoardo Gallnerとの協働作品である点でも、非常に貴重な作品です。

▲緑豊かなイタリアの山

それにしても、イタリアの山は日本のものとは全く異なる風景を作りますね。最初に訪れたとき、その荒々しさと巨大さに圧倒されたのをよく覚えています。

北イタリアの雄大なアルプスの山中に、その教会はありました。

▲「コルテ・ディ・カドーレ教会」背面

1カメ!(道に面する側。巨大なコンクリートと鉄骨、メカメカしい尖塔に迎えられます。)

▲「コルテ・ディ・カドーレ教会」側面1

2カメ!!(山を仰ぎつつ回り込んで……)

▲「コルテ・ディ・カドーレ教会」側面2

3カメ!!!(正面へと向かうアプローチ。この時点でも、手すりの格好良さ、捻られたステップの美しさなどに歩みを止められてしまいます。)

大きさが伝わったところで、入口を見てみましょう。

▲「コルテ・ディ・カドーレ教会」正面

先ほどの巨大なコンクリートの面とは打って変わって、親しみやすさを感じませんか?

実際に一周り屋根が低く小さくなり、庇(ひさし)が加わることで、普段我々が慣れ親しんでいるスケール感(※3 空間の尺度)に近づいたためです。

▲「コルテ・ディ・カドーレ教会」エントランス

天井に細かく並べられた木や、足元に凝らされた石畳のデザイン、異なる面がこちらに向くよう90°回転して配置されたH鋼の柱なども、我々を迎え入れてくれます。エントランスだけで、実にさまざまな趣向を凝らしたデザインに満ちていることがわかります。

そして思い出していただきたいのが、最初に見た背面のファサードです。正面と背面、一見異なるデザインに思える2つのファサードに、大きさは違えど同じデザインのコンクリートや、構造の梁(はり)、ワイヤーなどが使われているのです。庇の下の鉄骨の柱も同様で、一見独立して見える個々の要素は、全体の構成において確かな秩序をもっていました。

▲「コルテ・ディ・カドーレ教会」背面のクローズアップ

「コルテ・ディ・カドーレ教会」背面のクローズアップ。道側に表された構造要素である梁、鉄骨のトラス(※4)、ワイヤーは、正面のファサードにも見られる。

また、大きなスケールと小さなスケールの同居も、この建築の魅力の一つです。

スカルパが細部の美を重んじるのに対し、協働者であるEdoardo Gallnerは都市スケールで応答するデザインを重んじました。異なる性質を持つ二人だからこそ、化学反応が起きるのです。

ヴェネツィアという繊細な海(水路)で育った建築家と、雄大なアルプスにおける巨視的なスケールを持つ建築家のコラボレーション。イタリアでは、この上ない素敵な組み合わせを「マリアージュ」、結婚と言い表すことがありますが、まさにこの建築は「海と山のマリアージュ」と呼べるのではないでしょうか。