ひたすら匍匐前進の陸、お茶を飲む余裕のある空

カッターが終われば、あとはスキー訓練を除き、基本的に要員ごとに訓練が行われる。それぞれの訓練としては、陸は戦闘訓練や野戦築城に各種武器、海はカッターや機動艇、信号通信や海自法規、空は航空作戦や基礎警備、グライダーといった訓練などがある。

陸は何よりも体力が求められ、海や空では頭が求められる。4学年時には、1学年への教育法を考え、実践するという訓練も加わる。

卒業後の進路を決めることになる要員の決定は、防大生同士でも大きな運命の分かれ道となる。学生からの人気は圧倒的に空で、次いで海、陸の順になる。陸に行きたいと志望して叶えられないことは少ないが、空に行きたいと志望して叶えられないことは多い。希望が叶わず、退校を選ぶ者もまれに存在する。

航空が人気なのは、もともとの空への憧れに加え、入校して陸と空の訓練の違いをまざまざと見せつけられることにもある。

とにかく、必要となる体力がまるで違うのだ。陸は顔にドーランを塗り、銃を手にひたすら匍匐前進やランニングをしている。女子の陸上要員にとって、この「体力勝負」は大きなハードルとなる。男女の体力差が如実に出てしまうからだ。

▲厳しい陸自の訓練(戦闘訓練の様子。先頭が筆者) [松田氏所有写真]

海は陸よりは体力は必要ないが、舟を漕いだり国際法を覚えたり、何より船での生活が待っている。かたや空は座学が中心で、陸が走り回っている間に訓練を終えて、自室でお茶を飲む余裕すらある。

もちろん、要員ごとにバランスを考えなければならないので、優秀な者は必ず航空に行ける、というわけでもない。人気ゆえに「航空バカ枠」なる不名な称号すらある。

女子の多くは、陸上要員の上級生の姿を見て「なんてしんどそうなんだ」と恐怖に震える。特に体力のない女子には、その傾向が顕著で「陸じゃなければなんでもいい」と言う者も多い。このような状況下で、陸上要員が航空要員を嫌いになるのは必然とも言える。

「なんで同じ給料で、こんなにしんどさに差があるんだよ」との不満が思わず口をついて出る。私は陸上要員だったため、やはりこの気持ちは抱いていた。

4学年の夏の訓練において、陸上では「百一キロ行軍」という、3日間夜道を歩いて4日目の朝に敵陣地に突撃するという訓練があるのだが、4年間で最も厳しい訓練のため、これが近づくと女子は総じてブルーになる。

そんななか、航空の同期が「なぁなぁ、訓練に持っていく用の私服買ったー? 私は先週末に買ったー! 外出が楽しみ!」とウキウキで話しかけてきて、陸上の女子からのひんしゅくを買ったほどだ。

4学年ともなると、名札がなくてもどこの要員に所属しているか、雰囲気だけでなんとなくわかるようになる。陸上要員は熱く泥臭い、海上要員はスマートで変わり者、航空要員はカッコよくてチャラい。ちなみに、自衛隊全体に昔から言われている標語がある。

陸上自衛隊は「用意周到・動脈硬化」、海上自衛隊は「伝統墨守・唯我独尊」、航空自衛隊は「勇猛果敢・支離滅裂」というものである。私自身は陸上要員で、誇りも持っていたが「航空っぽいね」と言われると少し喜びを感じた。

▲2学年の定期訓練で富士登山をしている様子 [松田氏所有写真]

※本記事は、松田小牧:著『防大女子 -究極の男性組織に飛び込んだ女性たち-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。