店主は新橋の超有名人
秋が来ました。そう思っていたら、あっという間に冬の気配が街を支配しています。
過ごしやすい秋が大好きな私は、制限が解除されたら夜な夜な飲み歩こうと思っていたのに、おい、どこに行ったんだ、食欲と酒の秋。慌てた私は、魚のおいしい店に足を運びました。
新橋駅烏森口から徒歩5分ほど。『城喜元』という名店があります。きれいで上品な店構えですが立ち飲みで、とにかくうまい魚を食わせてくれるんです。
私は10年ほど前から通っているんですが、その頃の私は30代前半で、新橋で飲むことがちょっと背伸びをしている感じがしてね。いつだって楽しかった。そんなときに、この店に出会いました。
こちらのメインはおいしいお魚です。店主の松ちゃんは気さくな人柄で大人気なんですが、彼は名前を出せば誰もが知っている有名店の草創期に働いていて、店を大きくしたという伝説の人。だから仕入れの目は確かなんでしょう。「うちの方がうまいよ」と軽口を叩いているのを耳にしたことがあります。
そんなわけでまずは酎ハイで乾杯。横目でメニューを眺めますが、この店で必ず頼むべきメニューは決まっているので、まずはそれから。
「お刺し身3点盛り。太刀魚、アジ、カツオください」
「ごめんなさい、カツオ終わっちゃった」
「じゃあ、タコで」
刺し身は3品頼むと、とびきりお得なんです。そのうえ、何を食べてもうまい。だから私はしばし考えて、そして横の担当オジマに声をかけたんです。
「おまえさんは何が食べたいんだ」
二人の食べたいものを突き合わせるんですね。そしてお互いのドラフト1巡を出し合って、それが合致したら、残りの一品ずつを好きなものを頼む。それぞれ違ったら、ドラフト外の選手を話し合う。
担当のオジマは太刀魚と言いました。私も同時に太刀魚と口に出していました。ああ気が合うじゃないか。そのほかにも単品メニューを注文して、しばし待機します。マスターは一人で包丁を握っているから、のんびり待つのがいいですね。
さあ届きました。まあ見てやってください、ドラフト1巡の太刀魚の凛々しさを。そして、脇を固める選手たちのフレッシュさを。新しく就任したプロ野球の監督が、スタメンをファン投票で選ぶなんて話題になりましたが、まさにそれが実現したんです。私たちの熱い期待に応えた隙のないラインナップ。今夜はコールドゲーム間違いなしです。