堂々とエース同士の投げ合いを演じてほしい

少し辛口の評価になってしまいましたが、今の大野は明らかに変わりましたね。昨年は、投手にとって最高の名誉である沢村賞を受賞しました。

その際、僕はメディアから「先輩としてどう見ていたのか?」という取材を受けたのですが「正直、遅すぎます」とはっきり答えました。本来なら、読売ジャイアンツの菅野智之のようにプロ入り5年目で取れる実力はあったはずです。

おそらく、覚醒するまで時間がかかった最大の原因は、懸念していたとおりの大野の「やんちゃな性格」や「自覚の不足」だと思います。

0勝で終わった2018年ぐらいからですね。大野の人格が変わったなと感じたのは……。それまでは責任感のない発言をしたりすることもあったのですが、がらりと言動が変わりました。

僕は後輩のなかでも大野と話をする機会が多かったのですが、ここまで時間がかかった理由を、彼はこう話していました。

「自分がどれだけ能力が高いのか、わかっていなかったです」

おそらく、本当の自信を手に入れていなかったのだと思います。マウンドで自分を疑いつつ半信半疑で投げているようでは、やはり勝てるはずがありません。ですが、大野はどこかで本当の自信を手に入れたのでしょう。

それは、一昨年のバンテリンドーム ナゴヤでのことです。その日のナイターに向けて、16時までの全体練習を終えたあとも、大野がブルペンでシャドウピッチングをしていたんです。

僕からしたら、練習嫌いの男が黙々と投げている姿に「どうした、どうした」となりますよね。そのときに大野が漏らした言葉は今も忘れません。

「吉見さん、練習したらうまくなるんですね」

だから言ってるだろ! そんなツッコミを入れたくなる瞬間でした(笑)。「キャッチボールを大事にしろよ」「1球、1球、フォームを意識して投げろよ」「どこに投げるか常に考えて投げろよ」……大野には、いろいろなアドバイスをしてきましたが、ようやく響いてきたのでしょうか。今はシーズン中であろうが、ハメを外して朝まで泥酔するような姿はもうないはず、です。

中日ドラゴンズには、近代野球となって以降、星野仙一さん、今中慎二さん、山本昌さん、そして川上憲伸さんという偉大なるエースの系譜があります。

僕自身は、そこまでの強いエースという自負はありませんでしたが、周囲がエースと認めてくれたことで、立ち振る舞いや言動は常に注意を払いました。

僕は2013年に開幕投手こそ務めましたが、そこから右肘を故障。トミー・ジョン手術を余儀なくされて以降、思うような成績が残せなくなります。結果、チームにエース不在という非常事態を招いてしまいました。

投手陣に大黒柱がいないチームは、やはり他チームにとって与(くみ)しやすいもの。あれだけ常勝軍団だった中日ドラゴンズは、まさかのBクラス時代に突入。なんと7年連続Bクラスという屈辱を味わいました。

もちろん、僕がケガをしなければ一番よかったのですが「もう少し早く、大野がエースの立ち位置に行ければ状況は変わっていた」という思いもあります。

もう僕は現役を退いた身ですが、先輩としてその空白の時間をつくってしまったことに、今も責任を感じています。大野が伸び悩んだことは、僕にも一因があるのでは、とも感じているからです。

ただ、今は侍ジャパンにも選出される日本球界屈指の左腕。僕は誰よりもやっぱり大野に期待しているし、あとは「継続力」をどこまで持っていけるかだと思います。

それに加えて大野は、相手球団のエース――読売ジャイアンツの菅野智之、阪神タイガースの西勇輝、東京ヤクルトスワローズの小川泰弘、広島東洋カープの大瀬良大地、横浜DeNAベイスターズの今永昇太――もちろん、勝ち星は打線の援護の兼ね合いもあるし、水ものではありますが、彼らと堂々とエース同士の投げ合いを演じる主戦でないといけません。

立浪和義新監督をはじめ、首脳陣の考え方もあるとは思いますが、2022年シーズンは週の頭である火曜日に先発し、相手球団のエースに土をつける快投を願っています。