パリ協定の裏で進行する世界各国の思惑
岡崎 EU・アメリカ・イギリス・中国が「しょうがないよね、だって地球のためだもん」って思いながら、パリ協定を守っていくと思いますか?
加藤 そんなわけないですねぇ(笑)。
岡崎 絶対、裏で次のプランを作っています。
池田 パリ協定には罰則規定がありません。あくまでただの努力目標であり「こうなるといいね」というお題目です。いわゆる「世界人類が平和でありますように」と同じですよ。もちろん、“表の看板”としてそういうお題目を掲げるのは構いません。だけど、日本にはそれを真に受ける政治家がいるから怖い。
加藤 高い目標を約束することが、国際社会でリーダーとして認知されることだと思っておられるのでしょうが、積み上げがなければ絵に描いた餅になります。数値を達成するために無理やり法律で規制したり、カーボンプライシング(炭素税)の制度を作ったりしたところで、官僚は予算と手柄と権限が増えてうれしいのかもしれませんけど、現実離れした数字のおかげで国民はますます貧しくなっていく。国の富がどんどん海外へ逃げていく。こんなバカバカしい話ってありますか?
岡崎 そもそも国が出す数字でさえ眉唾ものの多い中国が、数字を正直に言うわけがないと思いません?
加藤 絶対ありえません。中国は、パリ協定以前には世界第2位の経済大国であるにもかかわらず、自らを途上国扱いしていたくらいですから。中国も、それからロシアも韓国も、途上国扱いで、自分たちの義務をまったく担ってこなかった。
岡崎 だから我々も、2050年のゼロ目標を“御神体”として掲げつつも、そこに100%の信仰を捧げてはいけません。これはもう、現実を見たらまず間違いないことですね。
加藤 目を覚ましてほしいですね。
池田 そのうち、みんなが途中で気が付くので「こりゃぁ、できませんね」ってことになりますよ。でも「できませんでした」という結論が出る前に、日本だけが自ら国の産業を相当痛めつけそうなのが問題です。既に経産省の報告書には「カーボン・バジェット※注1からのバックキャスト※注2は不適切である」と、はっきり書いてある。でも、菅首相(当時)は「目標をさらに引き上げましょう」と言ったわけですから呆れます。
加藤 なぜそうなるんですかね? なぜ政治家は現実離れした無謀な目標設定をするのでしょうか?
“環境”を軸に投資が集まるように仕掛けられている?
池田 この経産省の報告書は、かなり前に見つけて読んでいました。だから、僕も政府のいろんな発表を見るたびに、これと照らし合わせて「おかしいでしょ!」と言ってきたつもりです。でも、世間やメディアの論調がどんどんおかしな方向に寄っていっています。むしろ、経産省の2017年の報告書をベースにしている我々が少数派というか、変なことを言っていると思われているのが現状ですよ。
加藤 それは……やはり、カーボンニュートラル(脱炭素)で儲けたい人がいるからではないでしょうか?
岡崎 「邪魔するな」ってことですね。
加藤 この問題の背後には投資家がいるのでしょう。環境に優しいビジネスで将来有望だということでお金を集め、株価を上げて、人々の貯金から投資を促す。そうやって脱炭素を利用し、商機にしようとしている人たちがいるわけです。
『日経』には毎日のように「脱炭素でこういう新しいビジネスをしています」「うちの会社は脱炭素でこんなエコなことをやっています」「CO2を減らすこんなすごい努力をしています」といったフレーズがあふれています。それがひとつの企業PRになるわけですから、“脱炭素”はもはや広告ですね。
企業側からすると、社名が誌面に掲載されれば株価も上がるし、株主にも良いイメージを出せる。やはり“環境”を軸に投資が集まるように仕掛けられているわけです。
池田 この話はもはや、世界中の人間が自分の利益を守るために、それぞれがポジショントークをしているという領域に入っているように僕には思えます。なので、結論はしばらく出ません。
加藤 『日経』をはじめとして、大メディアが“脱炭素”の反対意見を一切掲載せず、宗教のように毎日礼賛するので、実際に製造業に与えるダメージを理解しないまま、国民的な議論もなしに、いろいろなことが進行しています。脱炭素で儲けられるような話ばかりが先走って、メディアも「SDGs」「持続可能社会」といったイメージの良い言葉を広めています。
結局、実態が何かわからないまま、どういうインパクトが国民経済や暮らし、雇用に起こり得るのかを国民が理解しないまま、ムードで話が進んでいく。実に恐ろしい話です。
※注2 未来から逆算すること
〇『EV推進の嘘 #9』パリ協定の嘘!実現不可能なCO2削減目標を掲げるのは何故か?(加藤康子・池田直渡・岡崎五朗)