勉強会に高級時計や海外旅行のプレゼント

Y美さんが投資を始め、投資家たちのLINEのグループに入ると、毎日のようにメッセージが送られてきた。

「仮想通貨の勉強会だけでなく、人を勧誘するために心構えの勉強会や、サポートをする側の勉強会などがありました。ほかにも、夢のリストを作って、夢に向かってどうやって進めばいいのかを教えてくれるセミナーなどもありましたね」。リーダーと言われる人たちは「しっかり勉強して、紹介できる人間になりましょう!」とY美さんを導いた。

「頻繁に勉強会やセミナーがあり、リーダーも熱意がありました。だから、真面目で前向きな良い会社なんだなと、だんだん思うようになっていったんです」

また、一生懸命勧誘をしたり、投資金額を増やすと“ご褒美”もあった。

「1週間おきにイベントがあるんです。例えば『今、お金を入れたら20%に利息UP』とか『今、何人紹介したらトップ◯名に3000万円の高級時計をプレゼント』とか。実際に、高級焼肉屋で表彰されている写真や、ドバイや沖縄に招待旅行へ行った方の写真をセミナーで見せられたりしました」

▲この時はやればやるほどご褒美がもらえるのだと信じていた

同時に、ネット上のマイページにログインすると、毎日のようにお金が入ってくるのが見られた。「入金している金額によって利率が変わります。大金を入れれば入れるほど、6%、8%、10%というように利率が上がっていく仕組みになっているんです。LINEのグループでは『やばいよ、収入が月収1000万超えたよ』というチャットが飛び交っていました。どんどんお金を入れなきゃという気持ちになっていきました」

気づけば、追加で100万円、そして100万円と入金を重ねていき、わずか1ヶ月の間にジェンコに632万円、GTRという別の投資商品に166万円を出していた。

「金額を上げていくと利率も増えていくので、最後のほうは、1日の利益が1〜2万になっていました。何もしないで、この金額が得られるなんてありえないですよね。パソコンの画面上だけの話なのに、なんであんなに信じていたんだろう? 最初でやめておけばよかった……。自分が情けないし、恥ずかしい……」

▲月収1000万円を超えたという仲間の話に刺激された

徐々に目が覚め「大変なことになってしまった!」

Iさんから誘われた投資を始めて1ヶ月後、貯まったはずのお金を引き出そうとしたところ、システム障害で出金できないとエラーが出た。

リーダーに問い合わせると「システム障害が起きているけれど、すぐに解消するから大丈夫」とのことだった。Iさんがお金を下ろしているところを見ていたこともあり「いつか出金できるはず」とY美さんは、疑いを持つことはなかった。

実際、エラーが出たあとに行われた忘年会にも出席している。「偉い人にいっぱい会えるよと言われて参加したのですが、とても派手なパーティでした。いろんなブランドのバッグが当たるような抽選会があったり、参加者全員に1万円が渡されたり。そのときはまだ信じていたんですよね」

だが、新年を迎えてもシステム障害は解消せず出金はできなった。

そのうち、会社がなくなるかもしれないという噂も立ち上り、ジェンコに関する情報を集めているうちに「もしかしたら、詐欺に遭ったのかもしれない」と思うようになっていった。

「離婚時に受け取った慰謝料だけでなく、子どもの養育費も大半を使ってしまいました。今後のことが本当に心配です。騙されたと気づいたあとも、Iさんからは新しいビジネスの紹介がありました。彼がやっているかどうかはわかりませんが、私はもう関わりたくないと伝えました」

Iさんに対して、どう思っているかを聞いてみた。「彼には目を覚ましてほしいですね。そして、もし返せるお金が少しでもあるなら返して欲しいです。せめて私の紹介料だけでも……」

Y美さんが入金した金額のうち少なくとも6%、つまり50万円弱がIさんの手元に入っているそうだ。

ちなみに、紹介すればするほど紹介料は上がっていく。Iさんは、歴代の彼女や出会い系アプリで知り合った女性には全て声をかけていたため、もしかしたら1割以上もの紹介料を受け取っているかもしれないという。

「私も大変だけど、立派なお仕事やめてしまって、奥さんや子どももいる人たちは、一体どうしているんだろうと心配になります。あの人たちも上の人から騙されていたのかな? そうではなく、騙しているという自覚があってセミナーで話していたのかな? ……もしかしたら、立派な経歴や家族のことも嘘なのかな? 今となっては、わからないことだらけです」

Y美さんが投資したジェンコとGTRは、警視庁がすでに本格捜査に乗り出している。主な運営者は逮捕され、金融商品取引法違反(無登録営業)などの罪名がつくのだろう。だが、こういった詐欺的スキームを持つマルチ型の投資商品では、紹介者たちは「自分も多くを投資しており、被害者である」といい、外国にある“本社”が悪いと言い逃れようとするのも常套句である。これらを司法はどう判断するのだろうか。