ハラスメントに寛容な風土は確かに存在する

自衛隊を去る直接的・間接的要因の1つとして「組織の体質の古さ」を挙げる人もいた。自衛隊は巨大な組織であるがゆえ、旧態依然としたところがある。

「検閲のための訓練、検査のための整備。本当に国防を考えているのかわからない想定。上級部隊から指摘を受けないため、という意識でやっていたことに落胆」「判子周りや調整に時間がかかりすぎる」「人事制度がおかしい」などなど。

また自衛隊には、セクハラやパワハラといったハラスメントが民間より横行しているという実感がある。これは「軍隊組織であること」「組織の体質の古さ」に加え、圧倒的な「男性的組織」であるがゆえに生じる問題でもあるだろう。

毎年度、防衛省が行なっている「定期防衛監察」の令和二年度版では、省内のセクハラ・パワハラ事案について以下のように記されている。

《セクハラ》

  • 容姿に関する発言や不必要な身体の接触といった職員が不快に感じる言動等があった(六機関等)

《パワハラ》

  • 威圧的な言動、人格を否定する発言、不適切な指導等があり、職場環境が悪化した状況を確認した(十三機関等)

《育児ハラスメント》

  • 育児に関する制度利用を阻害するような言動等があった(六機関等)

これは間違いなく氷山の一角だ。私が取材したなかでも、相当数出てきたくらいだ。たまたま露見したものがこの件数だった、というほうが正しいだろう。まず、防大時代からセクハラやパワハラに当たる言動は多い。

「『お前は難しい話よりエッチな話のほうが好きだろ』と言われて的確に言い返せなかった」

「コントで下級生から胸が大きいことをいじられて、後で同期に『注意しといて』と言ったら『なんで? ギャグじゃん』と言われた」

「大勢の前で『お前には価値がない』と言われる」

こういったハラスメントは、なぜ起こるのか?

1つは「そういった振る舞いが男性らしい」という空気があるからだろう。己の欲望、感情を素直にさらけ出すことに、一般社会よりも寛容な風土がある。

セクハラに関しては「みんなが言ってるから自分も言っても大丈夫」という感覚が育ち、そういった話題で盛り上がることにより「男同士の連帯を強める」。そして、それは「ノってこない女を仲間から弾く」作用を生み出す。

取材でも「下ネタを話してたら、男子のなかで『あいつは話せる奴』っていう認定を受けた」と振り返る者もいた。逆に、下ネタに興じない女子に対しては「ノリが悪い」という声が浴びせられることになる。

また男子のみならず、女子のなかにも「これくらいのことでギャーギャー言うようじゃ自衛隊ではやっていけないよ」とのたまう者が少なからずいる。この考えに性別も階級も関係はない。

パワハラに関しては、“自衛官として厳しく指導すべき”という思いと、パワハラとの境界線が曖昧なところもある。こういう場合、本人は心から「自分がやっていることは正しい」と思い込んでいることも多い。

実際、自衛隊の幹部のミスは、実戦であればそのまま隊員の命に直結する。「失敗したら次取り返そうね」という意識ではいられない。「女だから」という言い訳で許されるわけもない。また、同じ理由からプレッシャーにも、ある程度の耐性がなくてはならない。

こういったことから「世間一般ではパワハラ・セクハラに当たる」事例は数多い。もちろん、現役自衛官いわく「そういうめちゃくちゃな人は最近ぐっと減った」という声もある。だが、まだなくなってはいない。

※本記事は、松田小牧:著『防大女子 -究極の男性組織に飛び込んだ女性たち-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。