仏教の教えを忠実に守る民族性ゆえ、世界でも有数の寄付国家であるミャンマー。表向きは民主主義国家ということになっていますが、実質的には軍事政権国家で、貧富の差も激しく、市民の生活水準も貧しいと言われています。
2021年2月に軍事クーデターもあったミャンマーで、5年前から事業を展開している坂上五郎氏に、コロナ禍でのミャンマーの様子について聞いてみました。
外出禁止の“要請”で始まったコロナ対策
世界で新型コロナウイルスが流行し始めた頃、ミャンマーには全然入ってきませんでした。対岸の火事的な感じだったんですが、しばらくして外国で感染した人が帰国したことで広がっていきました。
最初の感染者は、インターネットで名前だけでなく、住所や家族の名前まで晒されてました。みんな恐れ慄いて、コロナ感染者の専門サイトが立ち上がって「2人目はこいつ!」という情報が書き込まれていました。
ただ、100人を超えたあたりから感染者が爆発的に増えていったので、それも自然となくなりました。
政府が行ったコロナ感染対策は、とても緩いものでした。ミャンマーは軍事政権ですから「武力を背景に強制ロックダウンしたんじゃないの?」と聞かれますが、全然そんなことはありません。
航空機の往来はさすがに禁止されましたが、一般市民の外出禁止に関しては、“強制”ではなく“要請”止まりだったのです。日本の「緊急事態宣言」と似た感じです。
「夜間の外出は控えて」「昼間の買い物はなるべく1人で行きなさい」といった感じでしたし、罰則は設けられていなかったので、私も外出していました。
ただ、会社には結構な圧力が政府からかかったので、1ヶ月ほど事務所は閉めてリモート勤務中心にしました。とはいえ、政府からの圧力で会社を閉めなくても、ミャンマー人は誰も出社してこなかったと思います。それくらい「外国から怖い病気がやってきた」とコロナに怯えていました。
なので、外出禁止は“要請”でしたが、現地の人たちはしっかりと守っていました。その理由は、ミャンマーの医療体制に大きな問題があったからです。
病気になったら一般薬局で薬を購入するのが基本
ミャンマーには日本のような健康保険制度はありませんが、それに似た社会保障制度があります。ただ、それを適用するためには、自分と会社が保険料を払わないといけないんですが、払っていない会社が多いのです。
また、保険料を払っていたとしても、その制度が使える病院が限られているうえに、まったく使えない、まともな治療ができない病院が多いんです。なので、大きな私立病院に行かないと治療できないのですが、そうなると治療費が払えない人が多く、行きたくても行けないのです。
ですから、ミャンマーで病気になった場合は、一般薬局で薬を購入して服用するのが基本になっています。ちなみに、日本では処方箋がないと買えないような薬も売ってます。
ですが、新型コロナは治療薬がまだ開発されていませんから、薬を飲んでも治りません。だから、みんな感染を恐れて外出禁止の“要請”をしっかり守ったのです。