ミャンマーで起きた2021年2月の軍事クーデターで身柄を拘束されたアウンサンスーチー氏に対して、禁錮4年の有罪判決が下された。ミャンマーでは新型コロナのワクチンを管理しているのが軍部ということで、“ワクチンを打ちにいくと、そのまま逮捕される”という噂が広まっていると、5年前からミャンマーで事業展開をしている坂上五郎氏は話します。日本では報道されていない現地の様子を聞いてみました。

軍事政権が民主主義の仮面を脱ぎ捨てただけ

▲スーチーさんの顔写真と所属する政党のステッカーが貼られた車。日本でいうところの“痛車”、それくらいスーチーさんの国民的人気は高い

2010年に、ミャンマー民主化の象徴といえるアウンサンスーチーさんが軍の自宅軟禁から解放されて、ミャンマーは民主主義国家へと大きく舵を切り、2015年の選挙でスーチーさんが率いる政党が議会の過半数を取ったことで、表向きは完全なる民主主義国家として認められていました。

ですが、実は軍部が国会議員の25%、つまり1/4の議席を選挙なしに送り込めることや、省庁を支配する権限を持つことを憲法で保障されており、軍が裏から実質的に支配し続けていました。

ミャンマーで憲法を改正するには、議会の3/4以上の賛成が必要なのですが、軍部が最初から1/4の議席を確保しているので、現実的に改正することができないのです。

2020年の11月に行われた選挙で、スーチーさんの政党が改選議席の8割以上を占める大勝利を収めたのですが、敗北した野党と軍部が「選挙に不正があった」と難癖をつけました。

しかし、スーチーさんはその難癖を一蹴します。

軍部は、クーデターを示唆する脅しを盾にして再度難癖をつけるも、スーチーさんはまったく耳を貸しません。そして、軍部はクーデターをするに至った、というのが簡単な流れになります。

これは私の憶測ですが、スーチーさんは議会の圧倒的多数を背景に、これまで裏から政治を操ってきた軍部の実質支配を排除しようとしたんじゃないかと思うんです。軍部が送り込んだ議員を少しだけ切り崩せれば、軍の力を弱めるように憲法を改正できるところまで、今回の総選挙で議席を獲得できていたのです。

でも、そんなことになったら、軍部、特にお偉さん方はこれまで吸えていたウマイ汁が吸えなくなってしまいます。だから、国際世論よりも自己の利益を優先して、クーデターを起こしたのだと思います。

▲今回のクーデターの発端となった2020年に行われた総選挙の投票所の様子。ソーシャルディスタンスを守っているため、投票所から長蛇の列ができていた

抗議で働くことをやめて完全に止まった経済活動

スーチーさんの政党が選挙で圧倒的勝利を収めたことからもわかるように、国民の大半が軍部には嫌悪感を抱いています。弾圧されたり言論の自由がなくなったりしていた暗黒時代に戻りたくはないからです。

なので、当然のように多くの国民がクーデターに抗議します。大規模なデモが行われて、軍部が鎮圧に乗り出してデモ隊に発砲、死亡者が出たことは日本のニュースでも取り上げられたと思います。

ただ、大規模なデモが行われたのは最初のうちだけでした。

武力に対してデモを行っても効果はないし、すぐに鎮圧されてしまうことが、ミャンマー国民はわかったわけです。そこで、多くの国民が取った抗議行動が、ボイコット運動でした。

公務員や銀行員、病院の医者や看護師など、国の要所で働く人たちが働くことをやめたのです。これにより、経済活動は完全にストップし、国が機能しなくなりました。

こうすれば、軍部が困り果ててクーデターを撤回するだろうとミャンマー国民は考えたのです。しかし、実際に困ったのは軍部ではなく国民のほうでした。

▲デモ隊が作ったバリケード。クーデターが起こった当初は激しい衝突が市内各所で起こっていた