佐々木健太郎・下岡晃・斉藤州一郎によるバンド、アナログフィッシュ。先日、3年ぶりとなるニューアルバム『SNS』をリリースした。佐々木健太郎のエモーショナルな歌唱が際立つダンサブルなファンクナンバー「Saturday Night Sky」をはじめとした、表現領域を拡げたフレッシュな楽曲群。加えてシャープな切れ味を併せ持つ、もう1人のソングライター下岡晃のメロディ&リリックセンスは今作も健在だ。

現在のアナログフィッシュが結実したような傑作について、メンバーの佐々木健太郎に話を聞いた。

仮タイトルは「健太郎アルバム」!?

――3年ぶりのアルバム『SNS』、とても素晴らしい作品だな、と感じました。作品ごとに違う表情を見せるのがアナログフィッシュの良さだと思うんですが、アルバムを制作するにあたって、今回はこういう作品にしよう、とかはメンバーで話し合ったりするんですか?

佐々木 今回の『SNS』でいうと、まず最初に下岡から「健太郎の楽曲を全面に押し出していきたい」って言われましたね。仮タイトルも「健太郎アルバム」で、レコーディングスタジオにも「健太郎アルバム」ってデカく書いてありました(笑)。

――(笑)。前作『Still Life』が、静かな湖に波紋を起こすみたいな作品って印象で、今作はその側面もありつつ、希望みたいなものも勝手に感じたんです。アナログフィッシュの楽曲でそれを強く感じる曲は、佐々木さんの作られたものが多いので、それを聞いて腑に落ちました。

佐々木 アナログフィッシュはボーカルが2人いて、それぞれが楽曲を作るバンドなので、昔は特に意識せず曲を作っていたんですが、2014年に『最近のぼくら』というアルバムをリリースしたあとくらいから、これからはバンドとしての全体像を見せていきたいねって話をして、そこからは話し合って意思疎通を図ってから曲作りをするようになったんです。

――3年ぶりのアルバムになりますが、昨今は配信でのリリースも主流になってます。バンドとしてアルバム、というスタイルにこだわりはあったんでしょうか?

佐々木 こだわりは特にないですね。サブスクの良いところとして、自分たちの曲がどこで聞かれているのかがわかるんです。最近は台湾やインドネシアでよく聴かれてて、それは「歌詞というより音で興味を持ってもらった」って側面が強いんだと思うし、聴かれ方に垣根がなくなったのもすごく良いことだなって思います。

だから「絶対にアルバムでまとめて出したい!」という想いがあるわけではないですが、ただ、まだ日本ではサブスクで聴かれることが、劇的にバンドの収入として還元される状況ではないので、どちらかに舵をきるってことはないですね。配信だとリリースまでのスピード感もありますし。

高尾山に3回登ってできた曲

――なるほど。アルバムでいうと、毎回新鮮に「新作が最高傑作!」って思えるバンドって珍しいと思うんですけど、アナログフィッシュはそうだなって思っていて。今作で個人的に驚いたのが、「Is It Too Late?」は作詞が下岡さん、作曲が佐々木さんで、この組み合わせは初めてだったんですね。

佐々木 そうですね、あえてやっていなかった、というわけではないんですが、やはり下岡はどちらかというと言葉から作る人で、僕はメロディーから作るんで、それぞれの長所をあわせられたら、とは常々思ってたんですね。ドラムの斉藤もやってみたら?って言ってくれてたし。

――これまでやっていなかったことが自然とできたのには、何かきっかけや作用はあったんでしょうか?

佐々木 去年独立して、メンバー間のコミュニケーションがより密になった、というのは大きいと思います。斉藤のアイデアで、コロナ禍でもオンラインでミーティングを1週間に1回、必ずやるようになって。僕も下岡も、どちらかというと腰が重いタイプなんですけど(笑)。

――佐々木さんの曲でいうと、「Moonlight」もすごく良いなと思いました。こういう表現が合っているかわからないんですが、とても若々しくて、瑞々しい。

佐々木 ありがとうございます。前作をリリースしてから創作ペースが落ちているな、って自分でも危惧していて。案の定、曲を作ろうとしてもエンジンがかかってこない。若いときとは違うなって。だから僕、この曲を書くにあたって、高尾山に登ったんです!

――え! 高尾山! どうして!?(笑)

佐々木 しかも3回登りました(笑)。普段から歩きながらリリックを考えたりすることが多いんですけど、ちょっと負荷もかけてみようと思って。(登ったことのない)皆さんが想像するより、高尾山を登るのって、けっこうキツいんですよ(笑)。

――そうですよね(笑)。でも、今のお話を聴いて少し納得がいく感じがしました。この曲から若々しさを感じたのは、間違ってなかったのかなって。

佐々木 うん、自分でも出来上がったときにそう思いました。エネルギーが落ちていたときに、頑張って作った曲が、結果的にフレッシュさを表現できて、自分もまだまだできるんだなって。自信にもなりました。