いざ芸能界へ!

会社を辞めて数日後、親父に言ったらぶっ飛ばされるような甘い考えを抱いた俺は、芸能プロダクションに履歴書を送る。時は1999年、俺は23歳。一度きりの人生、どうせだったら好きなことをして毎日楽しく暮らしたいと思っていた。

芸能界で成功したい。その原点にあったのは、幼い頃に「お前は親戚中の恥だ!」と罵ってきた父親を見返してやりたい、という気持ちだった。

▲厳格だった父

たしかに勉強はできなかった。でも、芸能界は才能さえあれば上に行ける世界だと思っていた。

金持ちになって「見たか! 学校の勉強はできなかったけど、凡人にはできない偉業を俺は成し遂げたんだぞ!」――そう言いたかった。

当時はスマホやインターネットなどなかったから、オーディション情報が載った雑誌を買い、気になったところに履歴書を送ると、いくつか返信の手紙が届いた。

当時の俺は「何になりたい」「どうやったらメジャーになれる」といった具体的なビジョンは何ひとつなかった。強いて言うなら、竹中直人さんやユースケ・サンタマリアさんのような、ドラマでもバラエティーでも活躍して、歌も歌えて司会もできる、とにかくなんでもできるタレントになりたかったんだと思う。

売れればなんでもよかった。そのときの俺にあったのは、全く根拠のない若さゆえの自信だった。とにかくスーパースターになりたかった。

自宅の郵便受けに芸能事務所からオーディションの手紙が届いたときはなんかワクワクした。夢の世界へのパスポートにも思えたのかもしれない。少し遠回りしたけど、これからやりたいことを仕事にして、毎日楽しく過ごせると期待に胸を膨らませた。もちろん、そんな甘い世界ではないことを後に知るのだが……。

オーディション会場に着くと、いかにも「それっぽい業界の人」たちがテーブルに座ってこちらを見ている。最初に芸能の仕事とはみたいなレクチャーを始め、やがて演技のオーディションが始まった。

与えられたお題は「落ちている財布を周りの人に気づかれないように拾って逃げる」というシーンの演技だ。

ありきたりな設定だが、俺は本能的にこのシチュエーションで笑いをとってやろうと思った。