今年コンビ結成47年目を迎える上方漫才の重鎮、オール阪神・巨人のオール巨人による著書『漫才論 僕が出会った素晴らしき芸人たち』(ヨシモトブックス)。漫才論のみならず、「島田紳助・明石家さんま・ダウンタウンの凄み」「若手漫才師のネタはYouTubeでチェック」「いつから芸人の地位は上がったか」など、彼だからこそ書ける一歩踏み込んだ技術論や価値観が詰め込まれている。

オール巨人が「漫才師」に必要と断言するある能力とは? また、引き際についても考えるという巨人の次なる目標とは?

 

漫才師には絶対に音感があったほうがいい

――もともとオール阪神・巨人の漫才が好きなのですが、お二人の掛け合いにはちょっと音楽的な部分があるというか。ネタを「曲」とすると、声のトーンや抑揚は「演奏力」だと思うのですが、どちらも素晴らしいということなんですよね。

オール巨人(以下、巨人) それ、友達がほんまによう言うんですよ。『プレイボーイ』の連載を担当してくれてる人も、いつも「巨人・阪神さんのネタはリズムが良くて歌聞いてるみたいや」って言いはるんです。他にもそう思ってる方いてはるんかなと思って。息と間(ま)ということなんでしょうね。

 

――そうですね。

巨人 僕、弟子をとるときに、まずは普通に履歴書を持ってこいと言いますけども、「君は音感あるのか?」「歌うまいのか?」「何か楽器できるんか?」ってよく聞きます。それは絶対に音感があったほうが、いい漫才できると思うから。

――立川談志師匠も同じこと言っていました。

巨人 えっ、そうですか、へえ~。

――歌舞音曲できないやつは落語家として大成しないと。踊りでも歌でもいいから、なんでもやりなと仰っていましたね。

巨人 うん、リズムが絶対あります。心地いいリズムというのは、お客さんが聞いていて聞きやすいリズムだと思いますけどね。だから、僕ら自分のビデオ、何百本と持っているんですね。古いやつから。自分の漫才見て寝ることがあるんですけど、自分が心地よく喋っていることは他の人が聞いても心地いいのかなと。ただ、ピンの場合ね、談志師匠が仰ってたのも正解だと思うんですけど、ピンの場合はちょっと違うと思うんですよね。リズムがなかっても、音感なかってもええんちゃうん。さんまなんか音痴やもん。

――歌出してますけど。

巨人 歌も下手やで(笑)。いやでも、それは違うかな。あいつはラップなのかもわかりませんし、違うもんの気持ちよさがあると思う。種目が違うと思います、はい。

――昨日、ちょうど矢野・兵頭さんに取材したんですけど、「NGKのトリって、やっぱりすごいことじゃないですか」と言ってて、「トリやりたいですか?」って聞いたら、ちょっと考えて「トリをとれる芸人さんは面白いのはもちろんなんだけど、品がないといけない」と仰ったんです。私、それオール阪神・巨人さんのことだなって思ったんですよ。その品というのは、どうやったら身につくものだと思いますか?

巨人 真面目な生活と違いますか(笑)。

――(笑)。師匠は「飲む、打つ、買う」って全然しなかったんですか?

巨人 いやいや、恋愛はそれなりに(笑)。ただ、僕はそもそもギャンブルがあんまり好きやないんですよね。

――それが滲み出る「品」になっているわけですね。

巨人 いやいや、本当はだらしない芸人になりたかったと思うんです。こんなんしんどいですよ(笑)。この本にも書いたけど、夜中の赤信号でも絶対渡らへんし。

――万が一、誰かに見られてネットに上げられたら、いろんな人に迷惑がかかってしまうというお考えですよね。

巨人 はい。そういうことも思うんですよね。さんまは日本一だらしない男みたいなところがありましたね。紳助もちょっとやんちゃやってたでしょう。3人は同期やったんやけども、僕が1番年上なんでみんなに注意していって、それで「真面目やな、風紀委員みたいやな」って言われて。

――その裏には、いい加減な人への憧れがあったんですね。

巨人 でもね、家の親父がしっかりしてて、その遺伝もあるんでしょう。親子、兄弟、家族、知り合い、友達に迷惑かけたらいかんと。スタッフや会社も同じで、そういうことでしんどいですけど守ってますね。うちの師匠も、ものすごい真っ直ぐな方だったので。