関西の実力派コンビとして知られる矢野・兵動。『伝説の一日』でも安定感抜群の貫禄ある漫才で会場を沸かせた二人にとって、吉本は芸人としてだけではなく、人間としての自分を育ててくれた場所でもある。
矢野が「あらゆる世代の芸人が揃って、時代と共に変化していく吉本は“社会の縮図”」と語れば、兵動も「それまで自分らで勝手にやってると思ってたけど、コロナ禍で会社は芸人のことをちゃんと見ていることがわかった」と語る。創業110周年に格別の思いを抱く二人が、芸歴30年を越えてなおも続く「精進の道」を語ってくれた。
劇場のトリをとるには格と品が必要
――お二人は1990年結成ですから、吉本にはかれこれ30年以上もいらっしゃるわけですが、吉本芸人でよかったなと思うことはなんでしょうか?
矢野勝也(以下矢野) おそらく他のプロダクションでは20年以上経ってしまうと、自分が一番古くなっちゃうというか、誰も叱ってくれへんようになると思うんですよね。でも僕らにはずっと大先輩たちがいて、その背中を見れる。まだ親がおる安心感というか。いまだに(オール)巨人師匠とかにも「飯行くぞー」て焼肉奢ってもろたりとか、30年いても、そうやって甘えられる人がおるっていう喜びがありますね。
兵動大樹(以下兵動) そうですね、きよし師匠がよく「吉本の芸人はみんなファミリーや」っておっしゃるんですけど、ふとしたときに感じるファミリー感。あと、劇場をずっと運営してくれるっていうのは吉本しかないので、そこは大きいですね。コロナ禍でお客さんが少ないときでも「やっぱり吉本は劇場開けるんや」って。そこに僕らも出させてもらってね。劇場出るんは当たり前になってるところもあったんですけど、コロナ禍を通じて余計に、劇場を守ってくれている吉本、そこに出してもらって最大限のパフォーマンスを発揮するぞっていう芸人さん、ホンマ素敵なファミリーというか、本当にすごいいい場所だなって、吉本芸人でよかったなって思います。
――劇場はたくさんありますけど、特になんばグランド花月は「笑いの殿堂」と呼ばれ聖地化していますね。
矢野 最終的にはNGKのトリを取れれば、芸人としての本望というか本懐でしょうね。ただ、こればっかりは年功序列ではないし、すでに頭角を現わしている若手たちもどんどんおるわけですから。切磋琢磨というか、常に先を見てね。今日よりも明日、明日よりも明後日、って次の舞台を確実にちょっとでもいいものにしていく努力をせんと、ここで成長が止まる。
兵動 トリっていうのは、ある意味「最後に出る人」ではないと思うんですね。芸プラス何か。やっぱりね、納得して帰ってもらうということが重要なので。格と品やなと思うんで。深みですね。これは僕はまだ全然わからないですけど、一番品のない男とやってるんで。
矢野 まあ、そうですね(笑)。元気だけでやってますんで。
兵動 ハハハ。まあ、そこじゃないですかね、芸人としての品と格。知名度じゃなくて。
矢野 僕なんかは下世話というか、「女にモテたい」とか「人気者になりたい」とか「将来大儲けして外車乗りたいな」とか、そういう漠然とした思いで芸人になって、笑いで世の中を救おうとかそんなこと思ってなかったんですけど。ところが、逆に年齢いってくると、笑いでお客さんに「元気出ましたわ」って言うてもらったらうれしくなったりとかね。なんか自分がお客さんとともに成長できたというか。
――若手だったらNGKの舞台に上がるとか、『M-1』を獲るとか、わかりやすい目標があります。一方でキャリア20年30年のベテラン芸人の方は目標を設定しづらい気がしますが、矢野・兵動の場合はいかがですか。
矢野 それはね、自分で各々が設定せんとあかんのでしょうね。相方なんかもずっとトークライブやってるし、YouTubeもやったりね。僕もいろいろ。だから、人にゆうたりとかではなくて、自分の中でね、人にやってます、じゃなくて、自分の中で常に目標を持って頑張っている、ひたむきなところがないとあかんのかもしれません。だから、ほんまにどっぷり浸かって、「このまま10年しとったらみんな世代交代して、俺らがそのまま出番、上にあがるんやろ」って思っていたらダメでしょうね。
兵動 今活躍している偉大な師匠たちに「お前らにバトン渡すわ」って言われるまで、自分らが「芸人としてどうありたいか」というところに向かっていくしかないですね。