後輩にイジられるのが大好き

――最近、ちょっと引き際を考えているみたいなことを仰ってましたけど、それもしんどくなってきたということなのでしょうか。

巨人 そうですね。まず劇場で漫才するのは楽しいから、これはまだやらしてもらおうと思うんです。需要があったら供給する、笑ってもらえるんやったらやる。ただ、テレビで漫才することとかは削っていきたいんですよ。僕が“引き際”と言ったのはこれです。昔のビデオって、ほんま罪ですね。「うわ! このとき、ええ漫才できてるわ、こんな元気で、息も間も最高。声も出てて阪神おもろい。(今は)こんなんできへんなぁ」。そう思ったらね、もうそろそろとか思ってくるんですよね。最近は体力的に阪神くんがちょっとツラそうなときがあって、週に1~2回倒れかけるんですけど、そこら辺のこともあって。需要がある限り、今は供給はしようと思いますけれども。

――ご自分ではそういうふうに考えていらっしゃるかもしれないですけど、歳を重ねて老境になってからでないと、できない表現みたいなものもあるのではないでしょうか。

巨人 それはどうなんでしょうね。

――いとこい(夢路いとし・喜味こいし)さんは熟練度が増して面白かったですし。

巨人:いとこい先生はね、ちょっと特別です。昔の漫才ってめちゃめちゃ早いんです。僕らより速い漫才があったりするんですけどね。例えば、噺家さんが80歳とか85歳になって、「しかし、まぁなんですね……」みたいな感じで、早く喋られへんからゆっくり喋って、みんなそれが“味”って言いはりますけども、僕はそうでもないと思うんですよね。速いこと喋れて、それを抑えてゆっくり喋るというのはまだいいと思うんですけどもね。

――それはご自分の基準値がとても高いということですね。

巨人:そうですね。僕がいつまでやるかはちょっとわかりませんが、ほんまは45歳で漫才はやめるつもりやったんです。

――『漫才論』にも書いてありましたね。

巨人 でも、周りがやめていくからもうやめられへんなって思うて。会社もやめさせてくれへんし、阪神くんは借金ある言うし。

――今は「人生100年時代」ですから、ファンとしては、これからもできるだけ長く活躍していただきたいです。さっき「本当はだらしない人間になりたかった」と仰っていましたけど、半世紀以上を“芸人”として生きていらして、自分を「芸人らしいな」と思うのはどんな部分ですか?

巨人 いやぁ、それ、どうなんやろうな。芸人らしい部分……?  それは上の方を敬うとか、先輩を誇りに思うとか、縦の関係を大事にする部分かな。僕も先輩があんまりおらへんようになってきましたけど、劇場なんかでたまに先輩と会うと、きっちり挨拶するね。そういうところはやっぱり芸人やろな。弟子の頃のことが身について、体に染み込んでるなと思う。それは師匠に教えてもろたもんで、縦の関係を重視するときには芸人やなと。舞台で、どうのこうのやってドーンと笑いとって、ものすごい気持ちようなるのも、もちろん芸人なんでしょうけども、普段の行動のなかでもそれは感じますね。先輩に対する自分自身の態度に。

――私は若い芸人さんに取材をすることも多いんですが、特に吉本の芸人さんは、本当に先輩のことを尊敬しているんだなと感じることが多いです。

巨人 そうですね、はい。

――普通は煙たい存在のはずなんですけど「師匠たちの背中を見て学びたい」と言う人が多いんですよね。

巨人 後輩方が、僕の名前をようテレビで言うてくれたりするんですね。本当にありがたいですよ。それはやっぱりね、恐い恐いと言いながらも親しまれてるのかなと思います。「巨人師匠やったら許してくれるだろう」と思って言うてくれてるんだと思うんですよ。僕はそういう先輩になることを目指してきましたので、そういうふうになれてるのかなと思います。本当に怖い人間のことは言いませんからね(笑)。

――プラス・マイナスの兼光さんが、よく師匠のモノマネをしてますけど、後輩にいじられるのはお好きですか?

巨人 いじられるの大好きですね、はい(笑)。うまいことよう返しませんけど。ランジャタイなんかもね、僕のパネル持って走ってくれたりね、彼ら二人からも手紙を直筆でもろたりして。そこら辺もきっちりしてるなと思う。

 

――オール阪神・巨人は2019年には紫綬褒章もとりましたし、巨人師匠はご自分の芸談をまとめた本も出版なさって、ある程度は人生の集大成的なものができたと思うんですけれど、次なる目標と言うとなんでしょう?

巨人 そうですね。漫才に関しては、もうちょっとゆっくり喋って、ゆっくりした漫才をしたいと思います。漫才に関しては、ほんまに今の若手ってすごいなと思う。センスもええし、堂々と喋ってるし。あがるということを知らんのかなと思う子がいっぱい出ている。

――そこは若手には負けられないと戦っている感じなんですか? 

巨人 それはありますね。いつもテレビ番組だと、最後に漫才したりするから負けたらあかんと思うし。何か新しい言葉を入れたいなとかいっぱい考えたりします。なかなかそれがうまいこといかんと、空回りするときもあんねんけども(笑)。