イギリス国防省によると、ウクライナで戦闘中のロシア軍と親ロシア派部隊について、多くの死傷者が出ていると発表したが、開戦直後から「核」の使用をちらつかせているプーチン大統領。この脅しに怯んではいけないが、プーチンを追い詰めすぎてもいけない。西側は外交で決着できる落としどころを模索すべきだ。

中国そして中国人の裏のウラまで知り尽くした石平氏と、米国の政治学者エルドリッヂ氏が精魂を込めて語り合った「日本のための防衛論」。この二人だからこそわかる中国と米国の「本音」を聴いてみよう。

ロシア人だけでなく世界の人々も一緒に天国へゆく

石平 プーチン大統領の運命によって、ロシアも違うロシアになる。世界の秩序も違ってくるでしょう。気になるのは追い詰められたプーチン大統領が、核攻撃に走る恐れのあることです。

ウクライナ戦争での核をめぐる動きを振り返ると、プーチン大統領が核戦力部隊に「高度な警戒態勢」を指示したと報じられたのが2022年2月27日。3月2日にはラブロフ外相が「第三次世界大戦は核戦争」になると恫喝。そして、4月20日には次世代の大陸弾道弾ミサイル(ICBM)「サルマト」の発射実験を強行しました。

▲ロシアは大陸弾道弾ミサイルの発射実験も イメージ:Alexyz3d / PIXTA

プーチン大統領は、この戦争中、終始一貫して核の使用をちらつかせているわけですが、日本人にとって最大の教訓は、核放棄した国を核保有国が脅し、あまつさえ攻撃する現実がある、ということです。プーチン大統領は核を使うのかどうか。これも大変気になるところです。

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所の推計によると、核弾頭の数がロシア6255発、中国350発に対し、アメリカは核弾頭を5550発(2021年1月時点)。一桁違う中国は、その強化を急ぐでしょう。

日本も核武装、最低でもアメリカと核シェアリングする必要があると思いますが。これは核を「つくらず、持たず、持ち込ませず」の非核三原則の、「持ち込ませず」を変えるだけでできる。

エルドリッヂ 核兵器を絶対に使用すると言っているのは、ウクライナのある国際政治学者です。ロシアを偉大な国家だと思っているプーチン大統領は、ロシアが滅亡するくらいなら世界も道連れに核兵器を使用するといいます。実際、プーチン大統領はロシア国民に向けて「そのときがきたら、自分たちだけでなく世界の人々も一緒に天国へゆくから心配ない」と呼びかけているそうです。

正直、私にはにわかには信じ難い話ですが、ロシアを知悉している方の発言だけに、この警告をおろそかにしてはならないと思います。

逆に言えば、プーチン大統領を追い込みすぎてはいけないということでしょう。だからといって怯んでもいけませんが。やはり、外交で決着できる落としどころを西側は模索するべきです。

もしプーチンがいなくなったら・・・

エルドリッヂ 2022年4月25日付「日本経済新聞」の一面に、日本の地下鉄は浅いため、地下40メートル超の駅がある大江戸線など一部以外は、核シェルターとしては適さないとの記事が出ていました。内閣官房によると2021年4月時点で、コンクリートの頑丈な建築物を指す「緊急一時避難施設」は全国に5万1994カ所、爆風被害を抑えやすい「地下施設」は1278カ所しかなく、都内には1つもない区もあると、同記事で紹介されています。

日本は道路や橋、空港を含めインフラが軍事利用できる規格になっていない、という根本問題がありますが、こうしたことを日経新聞が伝えることは、悪くない傾向だと思います。

▲都営地下鉄大江戸線 路線図:TAKEZO / PIXTA

日本の核保有については、「唯一の被爆国」であるという最強の外交カードは維持しつつも、同時にアメリカの核の傘がいつ外れてもいいように、独自の核兵器開発を進める、というのが私の持論です。

核保有国だったウクライナが核放棄に至ったのは、1994年の「ブタペスト覚書」によるもので、核不拡散条約に加盟するかわりに米英ロ3カ国がウクライナの安全保障を約束したのですが、結局破綻しました。日本にとっても、これは大きな教訓になってしまいました。

▲2014年のブダペスト覚書閣僚会議後の様子 出典:State dept(ウィキメディア・コモンズ)

石平 いずれにせよ、プーチン大統領がキーマンであることにかわりはない。しかし、中国の属国になるのはロシアにとっても悪夢であり、世界にとっても悪夢です。やくざの組織が1つあっても大変なのに、2つあったのが1つになって大きくなったのではたまりません。

エルドリッヂ 歴史をさかのぼると、ゴルバチョフは旧ソ連のリーダーで、共産主義を否定した。その結果、統治能力のないエリツィン大統領が誕生し、ロシア国民にとっても西側にとっても期待外れに終わった。そして今のプーチン大統領が登場する。もしプーチンがいなくなったら、西側の大統領が誕生するのか、プーチンよりプーチンらしい大統領が出てくるのかわからない。あるいは中国寄りの大統領が生まれるかもしれません。

石平 それは、習近平主席がいなくなれば、中国がよくなるとは限らないのと同じことですね。世界にとっては不幸なことですが、プーチン大統領がロシアに誕生した歴史的必然性はあるわけです。

※本記事は、石平×ロバート・D・エルドリッヂ:著『これはもう第三次世界大戦どうする日本』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。