エル・カブキが時事ネタにこだわる理由

――エル・カブキといえば、時事ネタのイメージがあるんですが、時事ネタにこだわる理由はありますか?

上田 最初は、純粋な時事ネタ、というよりは、ひとつのネタで1人の芸能人を掘り下げる、っていうネタをやっていたんです。それをずっと披露していたんですけど、あるときにネタ見せをしたら「それが面白いのはわかったから、違うスタイルのネタ持ってきてよ」って言われて。違うスタイルって言われてもな……って考えたとき、たしかに爆笑さんに憧れて芸人になったけど、時事ネタをやる気は毛頭なかったんです。

――それはどうしてですか?

上田 例えば、ネタ番組のオーディションがあったとして、そのときに受かったネタでも、テレビ放送時に同じネタやったら、もう古くなっているかもしれない。M-1の予選だって8月から始まりますけど、決勝は12月ですからね(笑)。基本、時事ネタって使い捨てになっちゃうんで、そんな効率の悪いネタ、若手はやらないんですよ。それで試行錯誤してるときに、ちょうどライブで島田紳助さん引退のタイミングだったんですけど、

「オールスター感謝祭、残念でしたね」

みたいなこと言うと、俺らのこと知らない人も“ん? こいつら、こんなこと言って大丈夫か?”って注目してくれるんです。そこで、

林「今回はなくて残念でしたね、チャック・ウィルソンと藤原組長の死闘」

上田「いや、誰が覚えてるんだよ、チャック・ウィルソンと藤原組長の相撲対決」

って言うと、笑いになる。あ、時事ネタっていっても、見せ方ひとつで全然違うんだなって気づいたんです。

――なるほど、鮮度はもちろん大事だけど、システムを変えることで印象がガラッと変わるということでしょうか。

上田 はい。それで2014年くらいからネタ作りの方向性を少し変えたら、TBSラジオの『マイナビラフターナイト』というネタ番組に出るようになって、ちょっと風向きが変わったんです。あの番組のありがたいところは、俺らのネタをあまりカットしない(笑)。それでTwitterでレポしてる方が、俺らのネタの内容をツイートしてくれるじゃないですか、そうすると知らない人もツイートの内容で、“なんだこれ?”って引っかかってくれる。俺らみたいなネタする芸人は、ネットと親和性が高いんだなって気づいて、そこからYouTubeで配信するようになりました。

事務所退社の理由、フリーでキレなかったらいつキレる?

――ただ、エル・カブキとしては昨年、約10年間在籍したマセキ芸能社を退社しますよね。この経緯はどういうものだったのでしょう?

上田 昨年の初めくらいに、俺らと、モグライダーとかスーパーニュウニュウとか、しゃもじとかカナメストーンとか、要はキャリアはあるけど、まだ結果を出せていない芸人が窓際族的なライブに移動になって、俺らエル・カブキには「事務所的には、もう十分プッシュしたと思うので、これからは若い子たちをプッシュします」と言われて、まあ当然ですよね。じゃあM-1で結果を出して、なんとか事務所に貢献しようとした矢先に1回戦落ち、という結果だったので、さすがに事務所に居づらいなと思って辞めました。

――お聞きしにくいな、と思ってたんですけど、こうしてお話してくださったので率直にお聞きするんですが、1回戦で落ちたのは何が原因だったんですか?

上田 それはシンプルにスベりましたね(笑)。正直、去年のライブでウケたところを全部詰め込んだようなネタだったんですけど、最後にM-1用にって、ちょっと柔らかくブラッシュアップしたんですよね、それがいけなかったなって。俺らのこと知ってる人にも知らない人にも、物足りない中途半端なネタになってた。まあでも去年、変にまた3回戦とか行ってたら、また1年間同じような活動を続けて、特に何も変わってなかったと思うので良かったですね。昨年末にも『日刊サイゾー』でM-1の記事を書いたんですが、それも近年の大会を取り巻く構造への疑問提起をした内容だったんで、それも事務所にいたら書けなかったかもなって思ってます。

――最近もnoteで、

個人的ブチギレ案件連続発生から約1ヶ月。数字や知名度としか喋る気の無いバカには興味ない。人の心と会話して、俺は思考を続けたい。

と書かれていて。気に食わないことにはしっかり噛みつく上田さんが、フリーになっても変わらずいて、よかったです。

上田 いや、フリーになってキレなかったらいつキレんのよ、って話じゃないですか!?(笑) でも、その話で言うと、自分は相手の知名度によって態度を変えるようなバカにはなりたくない。有名な人でもそうじゃない人でも、平等に接したい。だから俺は1年目の芸人でも敬語で接するし、大先輩でも筋が通ってないことには怒りたいんです。正直、上下関係、先輩・後輩って、面白いことと直結しない気がしているので。