憧れの稲川淳二に初めて会って泣いてしまった

――ぁみさんの場合は、その道を切り開いた結果、日本怪談界の第一人者と言える稲川淳二さんが「後継者」として指名したのが、本当にすごいなと思います。

ぁみ いえいえ! 恐縮過ぎて後継者だなんて全く思っていません!! ずっと憧れの方だったので、初めてドッキリでお会いしたときは、感激のあまり泣いてしまったんです。ありがたいことに、僕の怪談を「他にはいない、光るものを感じる」と言ってくださって。

――いろいろな媒体で「ぁみちゃんは自分のあとに続ける人間だと思う」って、おっしゃってくれてますよね。

ぁみ 本当にうれしいです。皆さんもご存知だと思いますが、稲川さんってすごく優しい方なんですけど、お仕事、怪談に関しては妥協がない。そんな方に褒められたのは、自分の姿勢が認められたようでうれしかったです。

――稲川さんは、ぁみさんのどういうところを褒めてくださったんでしょうか?

ぁみ これは僕の推測ですが、たぶん稲川さんの真似をしなかったところだと思います。正直、僕はすごく稲川さんマニアなので、尊敬しているからこそ、喋り方もスタンスも全く違うアプローチでいこうと思ってました。

――なるほど、リスペクトがあるからこそ、そこでも自分の道を開いていこうと。

ぁみ はい、全国ツアーをやるときも、僕は怪談を話すのも好きですが、怪談をみんなで話している空間も同じくらい好きなんです。基本、その地方のゲストを呼んで、複数人でやる。お泊まり会でみんなが怪談を話してる、あの感じを作りたいんですよね。去年の夏も、百物語(怪談を100話披露する伝統的な怪談会のスタイル)を行ったんですけど、ゲストを40人以上呼んじゃって、1人2話くらい話したら100話に到達しちゃったんですよね(笑)、僕ひとりでも100話せるんですけど(笑)。

――それは、ぁみさんの幅広い交友関係の賜物ですよね。昨年の11月に行った「ありがとうぁみの渋谷怪談夜会 第八夜」には、あいにゃん(SILENT SIREN)、加藤慎一(フジファブリック)、ちゃんもも◎(バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI)など、音楽フェスみたいな出演者がラインナップされてます。

ぁみ 怪談仕事をしていない人でも、自分の怪談を持っているなら話せるっていうのがやりたかったので。最初のうちは、あえて怪談を話しているイメージのない友人のアーティストや、アイドルさんなどにオファーしてましたね。自分が怪談の活動をするうえでの指針で、ライブのポスターにもよく書いているんですが、「怖いを楽しもう」という言葉。これには、どんな人でも敷居を低く怪談を披露してほしいって気持ちがあるんです。

話術とは思いやり、自分が喋りたいことは二の次

――それはとてもいいですね。ただ、ぁみさんを見ていると、私こんなに上手に話せない、そう思う人もいるんじゃないかと。

ぁみ たしかに、そういう悩みを相談されることもあるんですが、基本的に僕は自己肯定感が低くて、普段からすごくおしゃべりってわけじゃないんです。どちらかというと、お喋りな人の話を聞いていたいタイプ(笑)。ただ、自分が誰かに向かって話す、というシチュエーションになったら、相手の大事な時間を頂いている、という自覚は強く持つようにしています。そういう気持ちがあれば、相手に丁寧に伝えよう、なるべく無駄なことは省いていこうと思うじゃないですか。僕、話術って思いやりだと思うんです。

――思いやりというのは、わかりやすいですね。

ぁみ 怪談って、自分の話を相手に想像してもらって、その場に降り立ってその景色を一緒に見てもらえるように話すのが一番伝わるんです。だから、僕が怪談を披露するときは、相手がそう思えるような努力をします。そして、その描写を感じてもらって、そこから相手がどういう印象、感想を持つように誘導するかは、これは思いやりだと思ってます。自分が喋りたいことは二の次で。

基本的に怪談って、人間ドラマだと思ってるんです。自分が体験したことでも、誰かが体験した話をさせていただいてる場合でも、人生の一部に触れている。つまり、怪談を披露するってことは、大事な人間ドラマをお預かりするのと同じですよね。そう考えると、ただ怖がらせたいとか、そういうことじゃないなと気づくんです。そういう意識で話すと、怪談に限らず、話すということ自体を大事にできるんじゃないかなと思います。

――なるほど。お話を聞いていて、島田紳助さんが「話上手なやつは道案内上手」と言っていたのを思い出しました。

ぁみ あ、でもまさにそうです。“怪談が上手になるにはどうしたらいいですか?”っていう相談も受けるんですけど、道案内の練習するのもいいですよ、って答えたこともあります。

「今どこにいます? あ、なるほど、右手にセブンありますよね? その道をまっすぐ行ってもらって、ちょっと歩いたらポストありました? あ、じゃあそこを右に曲がってください。で、ずっと行くと、そうそう、行き止まりですよね。で、振り返ってください、髪の長い女性が立ってますよね? その人、実は亡くなってるんです」

これは今、適当にやったんですけど(笑)、怪談の練習をするのは、お話の練習になるかもしれないですね。

――すごい! さすがですね、引き込まれました。ぁみさんの直近の活動でいうと、8月9日に開催される「HORROR TELLER FESTIVAL 2022」が大きなイベントになりますね。

ぁみ こういう怪談のイベントを、サーキット形式で3会場4ステージで同時に開催するっていう試みは史上初だと思うので、もしかしたら大失敗するかも、と思っていたんですが、追加販売分も含めてSOLD OUTになりまして、ホッとしてます。やはり、同じことばかりやっていくよりも、常に挑戦を続けていきたいなと思っていて、その挑戦に面白がって乗っかってくれる方々と、怖いを楽しんでいければいいなと思っています。

プロフィール
 
ぁみ(ありがとう)
日本最大級の怪談エンタメLIVE「渋谷怪談夜会」を渋谷O-EASTで毎年主宰。2017年に初の全国ツアーを全公演 SOLDOUTさせ、以後毎年開催中。YouTube「怪談ぁみ語」、ニコ生「渋谷怪談夜会ch」なども人気。人気書籍「レイワ怪談」シリーズをはじめ書籍の執筆や原作提供を行う。司会進行・MC としての活動も多く年間約100 本のイベントや番組にMC出演している。怪談家ぁみオフィシャルサイト、Twitter:@arigato_ami