風の時代に舞い降りました。風野又二朗です。コンニチハ!!
定期的ではなく、すごくたまになんですが、風野は芝居の先生をする時があります。
縁があってといいますか、知り合いの養成所、学校があって、芝居を教える、教わる場所なのですが、ここでたまに頼まれて授業をする時があります。
そこでは、俳優になるための養成所ですので、俳優になるため、俳優としてプロの仕事をする為のレッスンが日々行われています。
パッと皆さんが思いつく芝居のレッスンとは、どういう感じでしょうか。発声練習をしたり、あるいは、セリフの喋り方を学ぶとかですかね。もちろんそれもあります。大切です。ただ、芝居とは、つまりそれは、その場所でどう生きるのか、どうやってそこに存在するのか、という事なので、教え方は一つではなく、簡単な事ではありません。
カフェで、カップルが別れ話をしているシーンがあるとします。
そのカップルが、どんな出会い方をして、どれぐらいの期間付き合ってきて、どうやって関係性を築いてきたのかの説明がなく、例えばその別れ話のシーンだけの台本を渡されたとしましょう。
俳優たちは想像します。それまでのその人物の歩みを、その台本の小さな情報から汲み取って、それを芝居に持っていきます。そしてお芝居を始めます。
これが、芝居のワークショップや授業だったりすると、色んな俳優たちが演じていきます。その場で。これは、毎回不思議なんですけども、同じ台本で同じセリフを喋っているのに、一つとして同じに見えないんですね。全く違う。
一番最後のセリフが『今まで、ありがとう』だとしますね。
これは、本当にそれぞれの、“今までありがとう”になる訳です。呼吸もスピードも表情も、どれをとっても全く違う芝居になる。あるいは、そのシーンの意味さえ変わってくる場合もある。
本当に大好きな人と別れる時のそれに見える時もあるし、もしかしたら、別に好きな人ができてしまった時のありがとうなのかもしれない、とか。
もう、随分と昔の話です。あれは、冬でした。12月の20日ぐらいだったかな。もう、すっかり気温は冬めいてしまって、吐く息は白い煙となって一瞬で夜空に吸い込まれる。そんな季節でした。
仕事の帰り、駅から家まで歩いていると、ポケットに入れていた携帯電話がなりました。
当時、付き合っていた彼女からの着信でした。携帯をパカっと開き、小さなアンテナを引っ張り出して、通話ボタンを押すと、携帯を耳に当てました。
『もしもし』
彼女から聞こえてきた、今まで聞いた事のないスピードと言葉の温度のもしもし。かといって、何か緊急性を含んでいる訳でもない。その奥に、少し決意が感じられる。瞬時に察知しました。
これは、別れ話だ。そこまで恋愛経験がたくさんあった訳ではないけど、この時は、本当に瞬時に分かってしまった。何なら、着信の時から、少し胸騒ぎがしていたのを今でも覚えてます。
次に出てくる言葉。『話がしたいんだけど』を待って、いつでもいい、早い方がいいよね?と言ってすぐに彼女に会いに行きました。向かう道中で、どうしようと、頭がクラクラして倒れそうになりながら向かっていました。
彼女に会うと、すでに彼女は号泣していました。そっか、別れを告げるのは辛いよなと思いました。なんか、何だかその泣き方を見て、さらに少し分かってしまったんです。
こりゃあ、他に好きな人ができてしまったんだなと。
泣きながら、言葉が出せない彼女を見ながら、最後に自分ができる優しさとは何か、男として最後にやるべき事はなんだろうってずっと考えてました。
いや、そんな冷静ではなかったと思います。そんな客観的には考えられなかったです。ただ、何かを追求したり、全てを知りたい訳ではなかったから。最後ぐらいカッコイイ俺で終わろう。それだけ思って、こう言いました。
『今まで、ありがとう』
この言葉の中に全てを入れた。全てが入りました。本音だけど、本音じゃない。過去もあって未来もある。感謝も寂しさも、相手の幸せ。全部が、この言葉に入りました。
帰り道、今日の事は絶対忘れちゃいけないと思って、いつか、この思いをして良かったと思える日が来ますようにと、自分で強く思いました。
すごくたまたまなんですが、冒頭の芝居の授業で使う台本に『今まで、ありがとう』ってセリフがあって、誰も越えられないでしょう、と。あの時の俺のあれは、誰も越えられないよ、ってずっと思ってたんですけど。
授業でやってみたら、みんな良い。みんな良いんですよ、とっても。そこで、思った訳です。そっか、みんなそれぞれ、生きてきた道が違うから、みんな違ってみんな良いなって。
芝居は、生きてきた道が出ちゃう。だからこそ、どうやって生きてきたのか、これからどうやって生きていくのか、それがとっても重要なんだなって。何だか、教えながら、教わってしまいました。
大変なこともあるけど、太く、強く、頑張って参ります!
それでは、又、風の吹く日に。