欲をなくすとクリエイティブなものが見えてくる

――ここ1年での大きなトピックを教えてください。

戸田 本当に最近のことなんですけど、アプリの法人提供を始めました。今までは個人のユーザーに使ってもらうことしか考えてなかったんですが、法人ということになると、社会との関係性みたいなものを考えることにもなりますし。今も学びながらやってる途中なんですけど、今までとはかなり違うことをやり始めたなと。

――法人向けに提供することを決めたきっかけはあるんですか?

戸田 ある経営者の方とお酒を飲む機会があったんですけど、そのときに「うち全然お金ないんですよね」って漏らしたら、「僕だったら、この『継続』アプリを売り込んでお金にしますけどね」って。「このアプリのクオリティだったら簡単に契約できると思う」みたいなことも言われて。でも、やっぱり売りたくなかったんです。寄付だけで行きたいなあって。

それからしばらく、ぐるぐると考えてました。そして、法人提供の道を閉ざすことで、狭い世界に閉じこもるのもよくないから、もうちょっとオープンにしていきたいという気持ちが勝って、ようやく踏み切りました。

――オファーはありますか?

戸田 はい。今日も頂戴したんですが、大きめの中高一貫校の校長先生からご連絡があって、「集中」の提供が決まりました。先週も中学校からオファーがありましたね。

――要望もどんどん取り入れていく予定ですか?

戸田 各社に個別対応することは、たぶんウチだとできないと思うんです。単純に人数が限られているので。なので、できるだけ声は聴きながら、広く一般に対応できる解決策を出していこうかなと。アプリのアップデートかもしれないし、使い方の提案をしてみたりもしたいと思っています。

――戸田さんの作ったアプリからは、戸田さん本人の面白さと優しさが伝わってくるように感じるんですが、そんな戸田さんが影響を受けた、と感じる人物はいますか?

戸田 社会人になってからですが、老子には影響を受けていると思います。bondaviの精神にも近くて、欲をなくしていくとクリエイティブなものが見えてくる、とか。お金儲けとかを考えると、何かに突き進む原動力にはなるかもしれないけど、想像力は失われていくっていう。

――戸田さんって、欲はあるんですか? アプリ開発って稼ごうと思えば稼げる仕事をされているのに、実際は広告もつけず課金も必須じゃないじゃないですか。

戸田 たしかに、あんまり人よりも欲は強くないと思います。ブランド物も全然興味ないですし、お金持ちになりたいとかもそんなに……。

――好きなことを仕事にするなら、自分の欲は二の次のほうがうまくいくことが多いんですかね。

戸田 かもしれないですね。自分の欲を優先してしまうと、目的とか目標を見失ってしまうことが多いかもしれません。

準備に時間を費やすよりも好きなことを早く始める

――好きなことと安定した職業、どちらを選んだらいいか迷っている人にアドバイスをお願いします。

戸田 僕が広告代理店を辞めて、bondaviを立ち上げて思ったのは、あんまりきっちり準備してやらなくていいんだなあっていうことです。

――準備をしなくていい?

戸田 会社を辞めたとき、どうやって食べていくかっていう計画も、どんなアプリから作っていこうっていう構想も勝算も全くなかったんです。まあ最悪ダメでも死にはしないからってやってみたら、意外なところから仕事をくれる人が現れたり、自分のために作ったアプリがヒットしたり、ということがあって。会社を作ってから起きたことは、何一つ予想できなかったことしかないんです。

しっかり準備して計画を整えてから、「よし!起業するぞ!」ってやっても、たぶんその通りにはいかなかったと思うんですね。その準備にかけた時間の分だけ、自分が好きなことをする時間がどんどん後ろにずれていくだけだから。

――なるほど。

戸田 だから僕は、あのとき本当に何も考えずに勢いで会社を辞めちゃったけど、それで良かったなあと思いますね。

――最後に、今後の展望をお願いします。

戸田 やっぱり、寄付で黒字化することは実現させたいですね。アプリ開発っていうと、お金儲けみたいな風潮に僕は違和感を覚えてたので。寄付で黒字化なんて、そんな綺麗ごとばっか言って…って思われるかもしれないですけど、それでも実際に黒字化を達成することで、bondaviの存在で、誰かに勇気を与えられるかもしれない。だからこそ、これは必ず実現したいと思っています。


プロフィール
 
戸田 大介(とだ・だいすけ)
大学時代の出会いをきっかけにアプリ開発に興味を持ち、知人を集めて制作をスタート。広告代理店に就職した後もアプリ開発を続け、2018年に自らが代表取締役を務める「bondavi株式会社」を設立。習慣化アプリ「継続する技術」は継続成功者数、累計ダウンロード数など5つの項目で国内1位に輝く。また、bondavi公式ホームページでは「bondavi事典」を運営している。Twitter:@todayske、Instagram:@today01