人間だれしも損はしたくない。だからこそ人生のあらゆる場面において、損をするような選択はとっていないと“思い込んでいる”人も多いかと思います。しかし実際のところ、仕事やお金に関することで損な行動をしまくっている人がいるようです……。行動経済学の専門家で、最優秀論文賞も受賞している太宰北斗氏にお話を聞きました。

※本記事は、太宰北斗:著『行動経済学ってそういうことだったのか! -世界一やさしい「使える経済学」5つの授業-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

儲けより損した悲しみのほうが大きい

「損を避けたはずなのに、結局、損をしてしまう」という、われわれ人間の変な行動を、どう説明したらいいのでしょうか。

まずは、行動経済学の誕生と発展に貢献した、ダニエル・カーネマン氏とエイモス・トヴェルスキー氏が主張した「プロスペクト理論」について紹介しておきましょう。

プロスペクト理論では、心理学で考えられてきた認知・判断の限界という観点ではなく、「損か得か」「うれしいか悲しいか」という、人の心の満足度の感じ方という観点から「ヒトがどのように物事の価値判断をしているか」、その非合理的な特性を説明していきます。

ポイントは3つ。

  • 心の満足感(心理的価値)は「水準」ではなく「変化」で決まる
  • 何かを損する悲しみは、同じものを儲けた際の喜びより大きい
  • リスクが好きか嫌いかは、損をしそうかどうかで変わる(損をするならリスクを追求するし、儲けがあるならリスクは避けたい)
▲株でもなんでも、儲けより損した悲しみのほうが大きい イメージ:evgenyatamanenko /PIXTA

 なんだかよくわからないかもしれませんが、大まかには、損失が出るのは絶対に嫌だという「損失回避」の特性を言い表しています。

どちらのボーナスが満足感がある?

【質問】次の選択肢のうち、どちらがより満足できるでしょうか?

A:あなたは今日、100万円のボーナスをもらいました。でも、本当は200万円の予定でした。

B:あなたは今日、100万円のボーナスをもらいました。でも、本当は50万円の予定でした。

満足できるのは、もちろんBですよね。

200万円の予定が100万円になったのなら、差し引き「100−200=マイナス100万円」。ほとんど誰もがそう考えます。

これが、満足感が「水準」ではなく「変化」で決まるという意味です(なお、プロスペクト理論では、心の満足感を「心理的価値」という言葉で言い換えています)。

このとき、心の中でなぜか損得の計算基準となっている金額のことを「参照点」と言います。

実際にもらったのは100万円でも、参照点が200万円ならマイナス100万円(つまり損)、参照点が50万円ならプラス50万円(つまり得)と考えるというわけです。

参照点は、予定のボーナス額かもしれませんし、隣の人のボーナス額かもしれません。参照点はお金に限らずなんでもよくて、いずれにせよ、心の満足感に影響しそうな要因の変化を表す際に「基準(0)」になるものを指します。

重要なのは、参照点より減るのだったらなんでもかんでも損失で、「何かを得する喜びは、それを損する悲しみに絶対勝てない」ということです。

▲心の満足には「参照点」が影響している イメージ:metamorworks / PIXTA

結果、損が出るのを避けようとする。これが「損失回避」と呼ばれる特性です。

仕事やお金に関して、あなたも「損失回避」の特性にハマって、「損を避けたはずなのに、結局、損をしてしまう」という行動を取っていないでしょうか?