今年に入り値上げラッシュが続き、6月以降はその傾向が顕著になっている。新型コロナウイルスの影響により、経済状況が不安定になった人は少なくなく、そんなタイミングでのインフレは泣きっ面に蜂と言っていいだろう。
ただ、なぜ今年から値上げが相次いでいるのだろうか。2022年7月10日に参議院選挙の投票が実施されるため、投票前にきちんと現在起きているインフレの原因を知っておけば、投票すべき政党・候補者が見えてくる。『日本を喰う中国 -「蝕む国」から身を守るための抗中論-』(ワニブックスPLUS新書)の著者で、京都大学大学院教授の藤井聡氏に話を伺った。
インフレは3つの要因が重なっている
――ここ最近、インフレが続いている原因を教えてください。
藤井聡(以下、藤井) 現在のインフレの要因は複合的です。1つめは、ウクライナ情勢の影響でエネルギーや食料品の輸入価格が上がっていること。2つめは、円安が進行したことによって輸入する際のコストが増したこと。3つめは、コロナ禍の影響で、国際物流を支える貨物船のコンテナ不足による輸送費の高騰と、あらゆる物資の供給量が不足したこと。この3つが挙げられます。
――この3つの要因は、2022年以前からも見られていたのですか?
藤井 3つめの要因は、新型コロナウイルスの感染拡大を見せた2020年から問題視されていたため、2022年以前から見られていました。しかし、第一第二の理由は、いずれも2022年に入ってからです。そのため、2022年に入ってから一気にインフレが進行することになりました。
――インフレ要因が重なってしまったのですね。
藤井 そうです。ロシアはエネルギー大国であり、小麦大国でもあります。ウクライナも小麦を始め、トウモロコシやジャガイモといった食料品の輸出が盛んな国です。ウクライナ情勢により、これまで通りのエネルギーや食料が輸入できなくなり、価格高騰につながっています。それと同時に円安も進行中しており、物価上昇は待ったなしの状況になりました。
――「円安」という言葉を耳にする機会が増えましたが、具体的になぜ円安が進行しているのでしょうか?
藤井 アメリカを中心とした諸外国では、コロナ対策を徹底したことで景気が持ち直し、インフレを抑えるために金利を引き上げている段階です。一方、日本はコロナ対策が不十分なため、景気が悪く金利は未だ低く抑えられている。諸外国との金利差が開いた結果、円安が進み、輸入価格の高騰につながりました。
先進諸国のなかでも深刻な食糧自給率
――日本の食料自給率の低さも影響したように感じます。
藤井 食料自給率の低さも大きいです……。そもそも、日本の食料自給率はカロリーベースで算出した場合、37%と先進諸国のなかで最低ランク。アメリカ(132%)、ドイツ(86%)と比較すれば、その低さはおわかりいただけると思います。
――なぜ日本はここまで低いのでしょう?
藤井 政府の農業保護政策が圧倒的に不足しているからです。先進諸外国では、“食糧自給率を可能な限り高めておくこと”、それ自体を国是にしており、手厚く保護しています。一方、日本ではそうした意識が低く、農業従事者一人当たりの所得に占める政府支出の割合は、諸外国の半分から三分の一程度しかありません。
――国のサポートが足りないのですね。
藤井 さらには、農産品に対する関税も諸外国と比較してとても低い。その結果、国内農家の日本市場における競争力が確保できず、国内農家のシェアが年々減少しています。ですので、ますます輸入依存度が高まっているのです。