異様な緊張感が漂うバックステージで…

ちなみに投票できるのは、横浜アリーナに足を運んだ1万人のみ。入場時に投票用紙が手渡されるので、ガチで1人1票。メドレーを見た後に「この子だ!」と思った子の顔写真の横にチェックを入れて投票し、それをエビ中がライブをやっているあいだにたくさんのスタッフが手作業(!)で開票していくというシステムになっていた。

メドレーの順番でかなり不利になった愛来だったが、まだチャンスはあった。

それはメドレーの前に設けられた「10秒アピール」。顔と名前とエントリーナンバーを周知してもらうための時間だったのだが、この10秒間を愛来はすべて「ヤンキーキャラ」に振って、観客を煽りまくってみせた。

アメフラっシのファンには周知のキャラだが、なにも知らない人が見たら、そのギャップに驚くはず。実際、バックヤードでも「46人の中で印象に残ったのは愛来と、『いぎなり東北産』の橘花怜(10秒間、ひたすら「私がシンデレラになる!」と連呼)だったね」と口にする関係者が多かった。

「すごく悩みました。ヤンキーキャラを出すことでマイナスのイメージになるかもしれないじゃないですか? でも、そうやって小さなことでギリギリまで悩んでしまうところも私のダメなところなんだと思います。やる、と決めたら、もうおもいっきりやらなくちゃダメですよね……」

結局、メドレーでは目立つことができなかった。

10秒アピールでよくも悪くもインパクトを残したことを考慮しても、苦しい闘いになるのは明白だったが、ももクロのイベントにたくさん出ていることで、モノノフ(ももクロファンの総称)に顔と名前を知ってもらえている、というのは大きなアドバンテージ。ももクロはシンデレラ決定戦に出ていないけれど、モノノフはかなりの数、会場に駆けつけていて、みんな1票を持っている。この票が流れてくれば……という期待感もあった。

メドレーが終わった直後、バックステージで愛来とすれ違った。

もう、その表情からは手応えのなさだけが伝わってきた。愛来は「しょうがないですよねぇ~」と苦笑いを浮かべていた。もう、あとは開票をひたすら待つしかない。

本当だったら、僕は客席に戻って、ももクロのステージを見なければいけなかったのだが、バックステージに集められた46人の表情を眺めていたら、このまま開票結果発表までここで一部始終を見ていたくなった。幸い、ここにはモニターがあって、客席に映し出されるのとまるっきり同じ映像が流れている。ももクロを取材するようになって、もう9年近くになるが、すぐそこで彼女たちがライブをやっているのに、わざわざ背を向けてしまったのは、これがはじめてのことである。

それだけ異様な緊張感がバックステージには漂っていた。

結果を発表するためにやってきたニッポン放送の吉田尚記アナウンサーも「僕もまだ結果を知らされていないんですよ。うわぁ~、誰の名前を呼ぶことになってもこれはヤバいなぁ~」と頭を抱えた。