小学生に聞いた「将来なりたい職業ランキング」のベスト10に安定して入る「研究者」という職業。やはり、憧れの職業であるからこそ、実際に研究者になるための道のりは想像以上に困難だそう。
しかし、困難を乗り越えて博士号を取っても、思ったより高給取りじゃないし、その過程では親からは「いつまで夢を追いかけてるの?」と言われる始末……。『脳を司る「脳」』(ブルーバックス)で講談社科学出版賞を受賞した大注目の脳研究者、毛内拡氏は「研究者とバンドマンの根本は同じ」であると語ります。
※本記事は、毛内拡:著『脳研究者の脳の中』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
入りたい「研究室」を志望して大学へ
今回は、理系の研究の現場の事情をご紹介しましょう。私が知っているのは、理系のキャリアパスの一例ですので、他分野では異なるかもしれませんが、一般的に通用する部分も多いと思います。
研究者にはいろいろな種類があるので、研究者になる道のり(キャリアパス)にもさまざまなルートがあります。ここでは、いわゆるアカデミアと呼ばれる大学や研究機関の研究者になるまでの道のりについてお話ししましょう。
さまざまなキャリアパスがありますが、研究者の大半は、大学を卒業したあと、より専門性を高めるために大学院に進学します。大学院は、最初の2年間が修士課程、後半の3年間が博士課程となっています。大学院の5年間を一貫したものと考えて、修士課程のことを、博士前期課程、博士課程のことを博士後期課程ということもあります。
大学院は、もちろん学部のように講義もありますが、その比重は小さく、そのほとんどを研究活動に費やします。
私自身は、受験の頃にはすでに脳の研究を志していましたので、当時少しずつ普及していたインターネット検索を利用して、いくつかキーワードを入れた結果、東京薬科大学というところに自分の知りたいことを教えてくれそうな先生を発見しました。
大学というよりは、その研究室を志望して入学しました。大学の研究室では、研究技術はもちろんですが、以下に紹介するような、私の根幹をなす考え方を教えてもらいました。
大学と大学院の研究の違いは?
大学の卒業研究は、読み、書き、発表、質疑応答を学び、実践する場であり、正しく研究背景を理解し、仮説を立て、それに対して正当な検証方法を提案できているかが評価になります。したがって、学生が卒業研究で大それた研究結果を出すことは、私は求めていません。
むしろ、きちんと研究計画を立てられたかが重要であり、自身の仮説を検証するために新しい実験方法を取り入れる必要がある場合は、その新しい実験系の立ち上げや導入で卒業研究が終了したとしても、きちんと評価すべきだと思います。
一方、大学院では、仮説に対して提案した検証によって、その仮説に白黒つけるところまでが求められます。白黒つけた結果、新たな示唆や疑問が浮かび上がってきます。それをしっかりと考察し、次の仮説検証にバトンを渡すところまでが修士課程の課題です。
ここで、運が良ければ一つの研究結果として論文に報告できる場合がありますし、2~3名の大学院生の結果を集結して一つの論文になることもあります。2~3名といっても、先輩から後輩に引き継ぎがある場合ですと5~6年かけて、ようやく一つのまとまった仕事になるということもザラにあります。
私自身は、学部時代に研究していたことを、より専門的に研究したいと思い、当時から共同研究をしていた東京工業大学の先生のもとに進学しました。卒業研究から引き継いだテーマであったことや、先生方のご協力もあり、修士を卒業するまでに論文を一報出版することができました。
私の大学院時代の恩師は、自分の学生には同じテーマを与えないことをポリシーとしていました。仮に全員が研究者になった場合、同じテーマだと自分の弟子同士がライバル関係になる可能性もあるからです。これはラーメン屋の暖簾分けと同じことです。それ以来、私も自分の学生の研究テーマが被らないように工夫するようにしています。