10月に入ってウクライナ全土を狙ったロシアのミサイル攻撃が連日続き、民間人多数が犠牲になり、ロシアへの国際的な非難が強まっている。このミサイル攻撃のきっかけは、ロシア本土とウクライナ南部クリミア半島を結ぶ橋の爆破事件。プーチンは「ウクライナ情報機関によるテロ」と決めつけ、エネルギー・軍事施設などへ報復攻撃を開始した。

ロシアによるウクライナ侵攻の口実は、ロシアが出した「ジェノサイド」や「ウクライナ軍によるロシア領内への侵入・攻撃」などのフェイクニュースがきっかけになったとされている。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長に就任し、現在は政治・経済について幅広く解説する小倉健一氏は、言論の自由は、最大限に認められるべきだが、受け取る側が「フェイク」を見抜く力をつけていかねばならないと警鐘を鳴らす。

※本記事は、小倉健一:著『週刊誌がなくなる日 -「紙」が消える時代のダマされない情報術-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

ウクライナ侵攻後にGoogleから届いた通達

Googleアドセンスが、2022年2月24日からのロシアによるウクライナ侵攻を受けて、利用者に以下のような「お達し」を出した。ここに全文を掲載する。

ウクライナでの戦争を受け、Googleは、戦争を利用するコンテンツ、戦争の存在を否定するコンテンツ、または戦争を容認するコンテンツを含む広告の収益化を一時停止します。なお、ウクライナでの戦争に関する主張が既存のポリシー(たとえば危険または中傷的なコンテンツに関するポリシーでは、暴力を煽るコンテンツや不幸な事象の存在を否定するコンテンツの収益化が禁止されています)に違反していた場合は、それらの主張に対してすでに措置を取っております。

パブリッシャー様向けガイダンスが今回の紛争に関連しているため、その内容をわかりやすく説明する(場合によっては拡大する)ことが、このお知らせの主旨です。この一時停止措置の対象には、不幸な事象が起きた責任は被害者自身にあると示唆する主張、および被害者に対する同様の非難(例=ウクライナが大量虐殺を行っている、または意図的に同国民に攻撃を行っているとする主張)が含まれますが、これらに限定されません。よろしくお願いいたします。 Google アド マネージャー チーム

この通達を読むと、Googleは「読者にとってのよりよいメディア環境を整えている」ように思えるものの、「被害者に対する同様の非難(例=ウクライナが大量虐殺を行っている、または意図的に同国民に攻撃を行っているとする主張)が含まれます」と具体的な例を出しているところに、やや言論統制的なものを感じなくもない。

国家と国家が、その存亡をかけて行う戦争では、互いにプロパガンダを流すことも多い。ロシアがフェイクニュースを流しているのと同様に、ウクライナ側もフェイクニュースを流していたといわれている。

「イラクのサダム・フセイン元大統領が大量破壊兵器を隠し持っている」ことを根拠として始まったイラク戦争も、結局のところ大量破壊兵器は見つからなかった。この点は、今も米国を中心に問題視されていることだ。

現時点で確定しているように見えることであっても、後になって否定されることも多いのは歴史を見ても明らかだ。Googleという一つの民間サイトが世界中のニュースサイトの収益源となっている今、世界中の「言論環境の管理」をすることのリスクはこれから増すことはあっても減ることはない。

当事者政府がオンラインでフェイクニュース合戦

ロシアのウクライナ侵攻がネットメディアに及ぼす影響は、Googleだけがもたらすものではない。ロシア・ウクライナ双方が相手の発表を「フェイクニュース」と指摘し合うなどの情報戦が続いている。

フェイクニュースとは、デマや一方的すぎる情報を指すが、これがメディアを通じて広がり、「陰謀論」や政治的なプロパガンダなどと結びついて人々の生活や、国の安全保障をも脅かす存在になっている。「ニュース」というだけに報道のような形で広がっていく。

▲当事者政府がオンラインでフェイクニュース合戦 イメージ:タカス / PIXTA

紙の時代での情報の伝播には自ずと限界があった。紙の印刷物を届けられる範囲でしか、情報が拡散しなかったからだ。しかし、オンラインは違う。人類の数ほどに達したスマホやPCを通して、SNSが中心になって効率よく瞬時に情報が伝播していく。それが事実かフェイクなのかが見極められないケースも多い。そして、そんな特性を利用する権力者たちもいる。

その最たる例が、ロシアのウラジミール・プーチン大統領がウクライナ東部でウクライナ政府軍による「ジェノサイド(集団殺害)」が起きていると主張したことだろう。

ロシアのタス通信は、ロシアがウクライナへ侵攻する前の2022年2月21日、ロシア領内に侵入したウクライナ軍車両をロシア軍が破壊したと伝えた。

しかし、イギリスの調査報道機関ベリングキャットは、SNSで拡散した映像に映っているウクライナ軍のものと指摘された車両を、装甲兵員輸送車「BTR70M」であると分析した。ウクライナ軍は「BTR70M」を運用していない。

「ジェノサイド」や「ウクライナ軍によるロシア領内への侵入・攻撃」というフェイクニュースが、今回の侵攻の口実に使われていたのだ。ウクライナでもフェイクと思しきニュースが流れており、両国によるフェイクニュースの情報戦が盛んだ。

ロシアは、西側諸国に「新型コロナウイルスのワクチンは効かない」というフェイクニュースを流し、逆に、ロシア国内では「ワクチンは効く」というニュースを流している。

フェイクニュース自体は、昔から「デマ」「虚言」など表現は違っていたかもしれないが、存在していた。

ただ、私たちも世間話の中で、相手の話が信頼性の足らないものだと感じたときには「それは、フェイクニュースではないの?」と問う場面が増えてきたように感じる。