整理できていない情報を見ても得られるものはない

私が防衛省の情報分析官であったときに、最も活用していた分析手法がクロノロジー分析だ。

クロノロジーとは、端的に言えば年表のことであり、クロノロジー分析とは集めた情報を過去から現在まで年代順に並べることで、物事の大きな推移や、出来事の前後関係に着目して因果関係を把握する手法である。

この手法は、特定の出来事を引き起こした力、つまり、影響要因を明確にすることができるので未来予測のヒントになる。

たとえば、過去のクロノロジーから「対外戦争→石油危機→民主化運動」という流れ、あるいは因果関係を把握すれば、現在起こっている戦争が引き起こす未来図を描くことができる。

クロノロジー分析は、過去の歴史に対して効率的に向き合う手法である。

日本の優秀な経営者も過去と真剣に向き合う。ある有名企業の経営者は、2008年のリーマンショックで売り上げがピーク時の半分以下になったとき、「会社がつぶれる」という恐怖感がよぎったそうだ。

そのとき、解決の糸口を見つけるために図書館に行って、1929年の世界大恐慌を調べて、大恐慌を生き残った企業をいくつか見つけ出し、その成功の要因を分析して、今の時代にも通用する方策を探り、独自の解決策を見出したという。

どのような組織も、過去のデータを長年にわたって蓄積している。つまり、クロノロジーを作成する材料はあるのだが、それを活かし切っていない。体系的な整理ができていないのだ。

“整理できていない”そのままの状態のインフォメーションは、単なる情報の集合体でしかないので、示唆や洞察が得られない。

▲整理できていない情報を見ても得られるものはない イメージ:Elnur / PIXTA

そこで自社の売上高の推移と自社の歩み(年表)を突き合わせると、現状の問題を解決したり、未来の戦略を立てる上での示唆や洞察が得られることを理解してほしい。

データや情報を体系的に整理するとはカテゴリーに分類することだ。そしてそもそも分析とは“分類して”“比較して”“特質をあぶり出す”ことだ。

少し、まとめよう。

歴史は繰り返すと言うが、そのまま同じことが起こることはない。そう考えると、クロノロジー分析の意味は大きく3つある。

  • 類似した出来事が起こる傾向を見つける
  • どんなことが影響を及ぼし、歴史をつくっていくのかを理解する
  • ドライビングフォース(推進力)を基準にして未来を予測する

つまり、現在の注目事象がどうなるかを予測するために、クロノロジーを作成し、類似した出来事がある場合、「どのように発生したのか?」「その変化をもたらした要因は何か?」ということを推理する。

クロノロジー分析は、単に歴史を考察するための手法にとどまってはならない。歴史の必然性や因果関係を必ず発見し、未来を予測するのである。

あなたもできる限りでいいから、過去にさかのぼって、なんらかの年表を作成してみてほしい。自社の売上高の推移グラフと自社年表、外部環境および内部環境における主要事象を年代順にした年表などを作成してみれば、思いがけない成果が導き出せるであろう。