『SPY×FAMILY』『ミッション: インポッシブル』『007』などなど、テレビやマンガの世界だけかと思えるスパイの存在。しかし、世界各地には「CIA(アメリカ)」「SVR(ロシア)」「MI6(イギリス)」「モサド(イスラエル)」など、実際に国家の機密をやり取りしている諜報員(スパイ)が存在します。

彼らにとって、仕事の失敗は即「死か投獄」を意味します。そんな緊張感しかない現場で、なぜ彼らは冷静に迅速に仕事ができるのか。その大きな鍵の1つが「協力者」の存在。冷静沈着に任務を遂行する彼らの仕事術は、そのまま超一流ビジネスパーソンへの近道となる。元防衛省情報分析官・上田篤盛氏が教える「協力者選びのテクニック」「平常心でいるための方法」とは?

※本記事は、上田篤盛:著『超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル -仕事で使える5つの極秘技術-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「協力者を選び、獲得し、情報を得る」テクニック

諜報員は、直接ひとりで機密情報を取るよりも、協力者を獲得して、彼らを通じて任務を達成することが多い。

協力者を獲得して運用するためには、「誰を協力者にするか狙いをつける」「協力者にふさわしいか評価する」「ターゲットとの人間関係をつくる」「ターゲットを勧誘する」といった段階を経る。そして、「実際に動いてもらう」ことになる。

これは、

  1. 狙いを定める(Spotting)
  2. 評価する(Assessing)
  3. 人間関係を築く(Developing)
  4. 勧誘する(Recruiting)

という4つの段階の頭文字をとり、SADRとも略称されている諜報員のテクニックだ。

実際に何をすればいいのか? まず、最初に行うべきことは、誰を協力者にするか。すなわち、近づくための協力者候補の決定である。

これには、考慮すべき2つの要件がある。それは、需要性(ニーズ)と可能性である。ニーズとは、相手が自分の必要とする情報を持っているかということである。業界用語では機密などを知る適切な立場にあること、あるいは人物を「インプレス」と言う。

つまり、インプレスにいる人物を探して接近する。自分や組織にとって、「役に立つ重要な情報を持っている」、あるいは「重要な情報にアクセスできるかどうか」、これが第一の基準となる。

たとえば、あなたが「ライバル会社が新商品を売り出すか?」、もしくは「どんな新商品を売り出すか?」を知りたければ、ライバル会社のトップ層に接近することがベストである。重要な企業秘密は、トップ層だけが持っていることが多いからだ。

相手が自然に「情報を話す」ように仕掛ける

しかし、多くの場合、相手側企業のトップにやすやすと近づくことはできない。このような場合は、どうすればよいのだろう?

そこで、第二の基準である「可能性」、つまり「あなたは接近できるか?」ということを考える必要がある。もし、諜報員であれば、企業トップの周辺で同様な情報を持っている人物への接近をはかるだろう。

一般社員でも、新商品の研究開発や宣伝広告に携わっている人がいて、関連情報を知っているかもしれないからだ。その場合は、ターゲットを広く選定して接近し、複数の情報をつき合わせて情報の角度を上げることになる。

まずは「問い」を設定し、必要な情報を選別する。

ついで、その問いに答えられそうな者は誰かを考える。この際、問いに直接答えられるハイターゲットよりも、ロータゲットに対し接触するほうが安全であり、現実的だ。

ビジネスパーソンの場合は、ライバル会社の情報であったり、効果のあるアイデア、個人が成長するためのスキルを知ることが目的になることだろう。展示会、セミナー、業界団体の会合に出席し、当たり障りのない会話をする。

当たり障りのない会話から、核心の情報に少しずつ近づいていくわけだから、核心の情報に関する知識のほかに、社会情勢、趣味、嗜好、スポーツなど多様なジャンルにおよぶ、豊富な話題に対応できることが必要である。

しかし、相手が自然に話すよう誘いを仕掛ける必要があるので、自分の知識をわざわざ披露する必要はない。だから、広く浅く、いろいろなことを知っておくことも重要である。

▲相手が自然に「情報を話す」ように仕掛ける イメージ:koumaru / PIXTA

とにかく、怪しまれないように接近することが大切だ。

諜報員は極限状態のなかで任務を遂行する。だからこそ、常に平常心でいなければならない。冷静な状況判断と感情コントロールができなければ、ミッションを達成することができないからだ。なぜ、諜報員は冷静にすばやく実行できるのか――。彼らの「実行力の高め方」を紹介しよう。