鉄板の織田裕二ネタでリベンジするも・・・

売れている先輩はみんな優しい。もちろん関根さんと面識は全くない。だが、スベった若手にもう一度チャンスを与えてくれようとしているのがうれしかった。

セット裏にいたくじらに「どうだった?」と聞いたら、「いつもすごいウケるのに……正直ハマってなかったね……」と気の毒そうに言われた。

だが、関根さんの後押しもあってか、スタッフさんに「2週目、世界陸上の織田裕二さんやりましょう」と声がかかる。入念に何度も練習して、いざ自分の出番。次こそハマってくれ! と祈るような気持ちで出ていく俺。ブリッジ音の後に一瞬だけ静まるスタジオに俺の声が響く。

「世界陸上陸上、男子100メートル決勝前に世界最速の男になるのは誰だ! というテロップが出たあとの織田裕二! ……ハッキリ言います……わかりません!」

スポンジの中でスタジオからも袖の芸人からも爆笑が起こっているのがわかった。

「やった!」

天に登る気分で、すぐにセット裏にいたくじらのところへ向かう。彼は俺にとって心細いスタジオにおける羅針盤のような存在だった。

「どうだった?」

「すごいウケてた。裏で芸人たちも笑ってたよ!」

リベンジ成功だ! あさこさんからも「面白かったよ!」と声をかけてもらった。なんとか爪痕は残せたかなと満足したが、この日の優勝はダントツで爆笑をかっさらい、何度もアンコールでネタを披露した博多華丸さんだった。華丸さんのネタはとにかくすごかった。ステージも袖の芸人もみんな大爆笑していた。

当時、全国的にはまだ無名だった博多華丸さんだが、この番組で披露したアタック25の児玉清さんのモノマネで、一気にスターダムを駆け上がる。翌年の『R-1ぐらんぷり』でも優勝し、大ブレイクを果たしたのはご存じの通り。

一方、俺もオンエア後の反響は凄まじかった。放送直後から電話やメールが鳴り止まない。

「オンエア見たよ!」

「すごい面白かった!」

「サラリーマン辞めて芸人やってたんだ!?」

なによりすごかったのは芸人仲間からの反響だった。当時『細かすぎて〜』は芸人のなかでも一目置かれる番組だったので、ライブでもショーパブでも声をたくさんかけられた。

「あのネタ、この前ライブのエンディングでみんながマネしてましたよ!」

芸人はテレビでネタを披露するのがどれだけ難しいかを知っている。それゆえ人気番組で爆笑をさらったことで、ちょっとしたスター扱いしてもらえた。それがうれしかった。

この勢いで次回もイケるはず! 今度こそスター街道を進むに違いないと、俺は有頂天だったし、やる気にも満ちていた。

しかしそれ以降、この番組には何十回となくオーディションに行くが、俺が二度と受かることはなかった。

(構成:キンマサタカ)

『TAIGA晩成 ~史上初! 売れてない芸人自伝~』は、次回9/23(金)更新予定です。お楽しみに!!


プロフィール
TAIGA(たいが)
1975年生まれ。神奈川県出身。2005年『細かすぎて伝わらないモノマネ選手権』(フジテレビ)、2009年『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ)、2009年の『あらびき団』(TBS)、2014年の『R-1』決勝進出でプチブレイク。下積み時代が続く中、2020年の『オードリーさん、ぜひ会ってほしい人がいるんです。』(中京テレビ)、2021年の『アメトーーク!』(テレビ朝日)出演で再ブレイクの予感がする46歳。Twitter:@TAIGAtrendy