奈落の底で聞いた“静寂”
そして迎えた収録当日。大部屋の楽屋には、全国区で売れる前の博多華丸さんや次長課長河本さんなど、のちにスターになる人たちがわんさかいた。
吉本の芸人さんは、ほとんど接点がないので面識がなかったが、いとうあさこさんはライブなどで一緒になっていたから、控え室で「今日なんのネタやるの?」「織田裕二さんのやつです」「あ〜あれ面白いよね」なんて会話をして緊張を紛らわせた。
なにより心強かったのは、ショーパブでも一緒にステージに立っていた、くじらも一緒だったことだ。彼はこのコーナーでビリヤードのスターや伝説の釣り師など、マニアックなモノマネで人気者になっていた。
リハーサルを終えて、いざ本番。俺たち若手芸人は新鮮さを失わないよう、本番前にとんねるずさんの楽屋に挨拶に行くことを禁止されていた。スタジオで初めて生で見るスターたち。二人が何かを言うたびにドカンドカンとスタジオが湧く。オープニングトークでスタジオはすっかり温まり「それでは早速参りましょう! まず最初はこの方です!」の声で、俺の一世一代の勝負が始まった。
セット裏にいる芸人たちは、ドキドキしながら自分の出番を待っている。皆、鉄板ネタを持ってきているのだが、そのときの流れや雰囲気でハマったりハマらなかったりするのがお笑い。ウケる芸人もいれば、さほどウケない芸人もいた。ただそんなことを気にしてる余裕などない。ネタを間違えないように何度も何度も練習する。
そしていよいよ俺の出番。一寸先は闇か、果たして天国か――。
披露するネタは、ライブではスベったことのない鉄板ネタだ。木梨憲武さんの「続いての方はこちら!」の声とともに、駆け足でステージに飛び出し叫ぶようにネタを発表した。
「ドキュメント番組『アフリカ大自然象物語』でコメント中に像に邪魔されて反撃する織田裕二!」
……ライブではウケた。オーディションでもスタッフさんがメッチャ笑ってくれた。自信を持っていいはずだ。だが、横で見ているはずのとんねるずさんが視界に入らない。Recが赤く光るカメラに向かってモノマネをする。オチを言った瞬間、床がバタンと開き俺は穴の中に落ちた……。
穴の底には安全のためスポンジが敷き詰められている。そこに埋まった俺に、笑い声は全く聴こえてこない。どうやらネタがスベったようだった。スタッフさんに誘導されセット裏に移動する。
まさか、ダメだったのか? 肩を落としていると、スタジオにいる関根勤さんが「この人は他にも世界陸上の織田裕二っていうネタもあるんだって。そっちも見たいよね〜」と言ってくれているのが聞こえた。