女性として生まれ、現在は男性として生活するトランスジェンダー男性の俳優 / 舞台プロデューサー・若林佑真。現在放送中のテレビ東京 木ドラ24『チェイサーゲーム』に出演中の若林は、ゲーム開発会社が舞台の同作で、トランスジェンダーのインターン生、渡邊凛役を務めている。

日本では、シスジェンダーの俳優がトランスジェンダー役を演じることが多いなか、この作品で実際にトランスジェンダーである若林が、トランスジェンダー役を演じるのは、非常に画期的なことであると感じている。

今回、若林に日本のエンターテインメント業界におけるトランスジェンダーの立ち位置から、これまでの人生、さらには今後の目標までをじっくりと伺った。

トランスジェンダーだと気づいたときの心境

――若林さんのこれまでのインタビューを拝見していると、非常に記憶が鮮明だなと感心するんですが、幼い頃の印象深い思い出はありますか?

若林 この質問だけで3時間くらい話せちゃうと思います(笑)。

――あはははは!(笑)

若林 というのも、理由は2つあって、1つは僕の話が長いっていうのがあるんですけど(笑)、もう1つは家に自分年表があるんです。

――自分年表!?

若林 はい。そもそも、トランスジェンダーの診断をもらうためにジェンダークリニックに行ったときに、自分史を書いたことがキッカケなんですけど、今は講演をさせてもらう際に、きちんと印象的に話せるように作っています。

――なるほど、そうなんですね。

若林 なので、講演会のときはもちろんですし、こうやってインタビューしていただけるときも、質問されてから“なんやったっけな~”って考えるのがイヤなんで、前の日に読み返すんです。だから、ざっくりした質問だと、逆にありすぎて、何を話したらいいかわからなくなっちゃうんです、すみません!

――いえいえ! これまでのインタビューを読ませていただいて、中学、高校の頃の話になってしまいますが、若林さんがキリスト教(プロテスタント)の学校に行かれて、その授業で、ご自身がバイセクシュアルじゃないんだと気づいて、“がっかりした”という話が印象的でした。

若林 がっかりというか、諦めの気持ちでしたね。小さい頃からずっと女の子が好きで。でも、当時は今みたいにLGBTという言葉も一般的ではなかったし、僕自身知識もなかったので、“同性愛”と”トランスジェンダー”は一緒だと思っていたんです。そして、女の子が好きな自分は、いったい何者なんだろう……と悩んでいました。

そんな当時、僕の周りでは、”同性愛”に対する印象もあまりよくないし、事実 “レズビアンの先輩がいる”とネガティブな噂が回ることもありました。だから、自分はレズビアンではなく、バイセクシュアルなんだ、と思い込もうとしてたんです。

――その状態で、授業を受けたということですね。

若林 はい。いつか自分も好きになる“男性”ができて、結婚して子どもを産んで“普通”の家庭を築くんだ! そうしないと“いけない”って思ってたんです。そこで受けたのが聖書の授業。人には、身体の性別と性自認と性的指向があるということを丁寧に教えてくれたんです。本来はここに“性表現”も含まれますが、当時は上記3つを教えてもらいました。

“シスジェンダーのレズビアン”の場合は「身体・性自認・好きになる性別」、それぞれ全て「女性」です。対して”トランスジェンダー男性の異性愛者”は、「身体が女性で、好きになる性別も女性だけど、“性自認”が男性」。両者は全く別物なんだと知ったときに、“あ、自分はレズビアンでもバイセクシュアルでもなくて、トランスジェンダーで、女の子が好きなんだ”と気づいたんです。

――気づいたときの心境は、どういったものだったんですか?

若林 ひとつは自分が何者かわかってうれしい安堵感、もうひとつは「あぁ、この先、自分はいわゆる”普通の女性”としては生きていけないんだろうなぁ」、という諦めの気持ち、この半々でしたね。

――お話してくださってありがとうございます。お話を聞いて、改めてキリスト教の学校だからとかそういうのを抜きにして、そういう授業ってするべきだなと思いました。もしかすると、今はあるのかもしれませんが。やはり未だに、身体的な部分と性的指向でしか見ていない、あいだの性自認というところがスッポリ抜け落ちている方が多いように思うので。

若林 そうですね。大学のときの話なんですけど、女友達と2人でご飯を食べに行く機会があって、その友達が“彼氏の束縛がすごい”って愚痴るんです。男とご飯なんてもってのほか、連絡すらも取るなって言われると。そのとき、僕はトランスジェンダーでカミングアウトしていて、見た目も男性。「え、じゃあ今日は大丈夫なの?」って聞いたんです。そしたら、その子が彼氏にも僕の話をしていて、「ついてないんだったらいいよ」と言ったって。

――ひどい。

若林 そういう行為が物理的にできるかできないかで判断するその彼氏にも、それを僕にそのまま伝えてくるその子にも、”おい!”と思いましたね(笑)。実際には「おい! その彼氏連れてこいよ!」と笑いながら返しましたけど、改めてそうやって言われると、仲が良かった子だけにショックだなって。

――そうですよね、近い方にちゃんと理解されないのはつらいですよね。

若林 身体的な性別でしか見られてないんだ、というのはすごく悲しかったですね。

――そのときは場の空気を読んで笑いながら返されたとしても、言われた本人はすごく悲しんでいるかもしれない、と思ったほうがいいなと思いました。

若林 先ほどの授業の話ですが、その授業を受けたときに、僕がトランスジェンダーであることをすんなり受け入れられたのは、先生が”LGBTQの人がいることは当然のこと“として話してくれたからだと思ってるんです。

例えば、ある人がコーヒーを渋い顔して飲んでいたら、他の人はその表情を見て“まずいのかな”と思うかもしれない。でもニッコリして飲んでたら“おいしいのかな”と思うかも。コーヒーの味自体は変わらないけど、その人の表情ひとつで相手にプラスにもマイナスにも印象を与えられるっていうのは、自分の中の指針になっています。

だからこそ、当時の僕は、友人から先ほどの発言をされたとき、その子に悪意がないこともわかっていたし、せっかくの楽しい時間を険悪な雰囲気にはしたくなかったので、マイナスな反応はしませんでした。でも、そこでしっかり自分がイヤな気持ちになったことを伝えるのも、自分を理解してもらううえで必要だったのかも知れないと、今では思っています。