カミングアウトしたときの家族の反応

――たしかに、こちらのお話を笑顔で聞いてくださる若林さんに、緊張がほどけていくのを感じます。

若林 少し話は変わってしまうかもしれないんですが、高校のときの担任の先生がとてもいい先生だったんです。高3の頃に母が倒れてしまって、1週間くらい意識がない状態が続いて。父も離婚していなかったので、僕と姉の二人っきり。しかも受験も重なっていて、かなり精神的に参ってしまったんです。家のこともいろいろやらなきゃいけないから、遅刻気味になって。

それを心配してか、担任の先生に呼び出されたんです。ちょうどその頃、豚インフルエンザが流行った時期で、高校生の僕は意識のない母に面会すらできなかった。1週間ほどして母の意識が戻ったとき、僕は会いに行けなかったので、祖母が写真を撮ってきてくれたんです。でも、そこに写っていた母は、喉に管が通ってる、目の焦点は合ってなくて、口はダラーン、僕が最後に見た母の姿とは全然違って、すごくショックだったんです。

担任の先生にその話をしたら、「あなたがよかったら、その写真見せて」って言われて、見せたら「こんなんな、私だって3日間寝たきりやったら、こんな顔になるわ~、お母さん1週間寝たきりやってんやろ、それにしてはめっちゃ綺麗やん」って、当たり前みたいに言ってくれたんです。大変だね、とかではなく、そのリアクションにすごく救われました。

――いい先生ですね、なかなかできることじゃない。

若林 そうですね。だから今、僕が悩んでいる方に話すときや、講演会をするときは、どんなことを言われても“いろいろな人がいて当たり前だよ”、というふうに伝えようと心がけているのは、その先生の言葉がキッカケですね……たぶん、この話するの初めてかもしれない(笑)。

――貴重なお話、ありがとうございます(笑)。ご家族のお話で言うと、お姉さまの存在もかなり大きかったと聞いています。

若林 はい。19歳の誕生日直前だったんですが、家族にカミングアウトしようと思ったときに、母は高次脳機能障害という病気を患っていて、今やっていたことをすぐ忘れてしまうような状態だったんです。ひとまず姉に部屋で説明していたら、車椅子で歩くこともままならない母が「私にもその話聞かせて」って部屋に入ってきて。カミングアウトしたら「別にええやんなあ」「私はあんたが男の子でもイヤやないよ」って言ってくれて。あわせて姉も理解を示してくれて、すごくうれしかったです。

その後、19歳の誕生日には、姉は仕事の研修でいなかったんですけど、手紙を母に預けてくれていて、その手紙には「誕生日おめでとう。今まで気づかなくてごめん」「あと、小さい頃、死ねとか言ってごめん」という謝罪の言葉と、「よかったら使って」という言葉と合わせて1万円が入ってたんです。一緒に暮らしてるから、お金がないのもわかるのに……あと、小さい頃にはずみで言った言葉を覚えてくれていたのも嬉しかったです。

――言われたほうは覚えていても、言ったほうは覚えてないことがほとんどですもんね。若林さんは、ご家族の理解を得られたと思うんですが、理解が得られない方もいると思うんです。このインタビューだけだと語りきれない問題だと思いますが、そこで悩んでいる方がいたら、どのように声をかけますか?

若林 家族にカミングアウトされたら驚くとは思うんですよね。ただ僕が伝えたいのは、やはり当事者がありのままに生きるには何が必要かというと、周りの理解だと思うんです。

「理解できない」と言っている方のなかには、そもそも“よくわかっていない”という方もいると思うんですよね。なので、勇気のいることですが、”LGBTQ+”について書かれた本を渡してみたりと、まずは知ってもらうことから始めてみるのがいいのではないかと思います。そして、カミングアウトされたご家族は、その方の気持ちに寄り添ってくれたらうれしいなと、一当事者としては思っています。

――本当、その通りだと思います。

若林 そもそも僕は、カミングアウトすることが全てとは思っていないんですよね。でも、カミングアウトをしたときに、周りからの理解を得られるか否かは、とても重要なことだと思っています。

一方で、学生向けの講演では、いつも「本来、他人はあなたの容姿、性自認、好きな人や物、着たい服、やりたいことを否定できないんだよ」と伝えています。あなたもアリ、あなたもアリ、だから自分もアリなんだって。苦しいとき、そういう考えができないこともあるけど、「この言葉を頭の片隅に置いててね」って伝えています。