3チームに見限られながら這い上がった苦労人

そして、彼のルーツを遡っていくと、いかに誰もが応援したくなるような苦労人だったか、というのも明らかになっていきます。

彼は現所属のヤンキースに、2013年ドラフト36巡目に指名(総合順位では1,094人目。メジャーリーグのドラフトの規模の大きさを感じますよね……)され、契約金はたった8万5000ドル(当時約825万円程度)でプロ入りしています。

そこから4年間無名のプロスペクトとしてヤンキースで鍛錬を重ねたあと、2017年のルール5ドラフト(NPBでいう現役ドラフト)でボルチモア・オリオールズへ移籍し、2018年にはメジャーデビューを果たすも、デビュー後たった9日でDFA(実質戦力外通告)を受けてしまいます。

その後、ヤンキースへ出戻りしますが、2018年はそれ以降昇格なし、2019年はメジャーで33試合を投げるものの防御率5.67と振るわず、そのオフにシアトル・マリナーズへ放出されます。2020年はシアトルで過ごすもののたった7.2回で6本塁打・13失点を献上し、オフにまたもDFAを受けてしまいます。

年明けにヤンキースへ2度目の出戻りを果たしますが、2021年シーズンにようやく努力が実り、前述の通り大ブレイクを果たします。

では、なぜプロ入り9年目になってようやくブレイクを果たせたのか。大きな要因は2つあって、いずれもコルテス選手の並外れた努力の賜物だと思っています。それはカッターの習得、及びストレートの大幅改善でしょう。

じつはコルテス選手、2016年以降、毎年ドミニカ共和国のウィンターリーグで投げていて、ブレイクを果たした2021年オフには5年ぶりに参加を見送りました。本人曰く、少しでも多く経験を積み上げ、なんとしてもメジャーで結果を残すための手段として、毎冬マウンドに立ち続けたとのことでした。

そんななかで、2018年冬に1つめの転機が訪れます。チームメイトのオドリサメル・デスパイネ投手(現KBO・KTウィズ所属)からカッターのグリップを教わります。しかし、このカッターも試してみたものの、当時は動きにキレがないため有効ではなく、数年お蔵入りとなりました。

そして、2020年オフに2つめの転機が訪れます。ヤンキースと再契約し、コーチ陣と投球フォームの修正やトレーニングの見直しなどを経て、ストレートの球速が2.5mph(4km/h)も上がります。その結果、前述のストレートのノビ、そしてカッターのキレも大幅に上がり、ここで全てがカチッとハマります。現在、投げている有効な球種が全て出揃い、エースピッチャーの土台が完成したわけです。

ちなみに、2021年オフにはさらに磨き上げ、2022年シーズンにはストレートの球速が更に1mph(1.6km/h)上がりました。ブレイク後も倦(あぐ)むことなく努力を続けた証拠だと思います。

彼がさまざまな名言を残すなかで、個人的に刺さったのは「メジャーでの先発投手を味わってしまった以上、もうリリーフやマイナーには絶対に戻りたくない。先発ローテに必死にしがみつくために努力を惜しまない」という旨のもの。まさに有言実行できていて素晴らしいですね。

▲2013年ドラフトでは36巡目に指名されていたコルテス 写真:AP/アフロ

ニューヨークに口髭ブームを巻き起こす人望

突然ですが、コルテス選手ってどう見ても良い人そうですよね。ここに関しては見た目通りです。本人も、自分がファンに若干ネタにされているのは自覚があって、それを肯定的に捉えているのが好印象です。

ファンから付けられたあだ名「Nasty Nestor」を左手首にタトゥとして刻んだり、自分を任天堂のスーパーマリオに似せた絵のシャツを着て練習したり、いつもノリノリであるほかにも、自身の容姿を踏まえ「恵まれない体型や球速でも頑張ればメジャーリーガーになれる、ということを子どもたちに魅せたい」とネタを利用してロールモデルにまでなっています。

そして、チームでもムードメイカーとして鼓舞し、ベンチでチームメイトと談笑しているところや、チームの活躍を祝う姿がよく映されています。

今年に入ってルーカス・リトキー選手、マット・カーペンター選手、グレッグ・ワイザート選手が全員口髭を生やして登場をしているのも偶然ではなく、コルテス選手が始めた口髭ブームはヤンキースをはじめ、ニューヨーク中に広まっている点に関しては何度思い返しても笑いが止まりません〔※コルテス選手が始めたかどうかは確証がないものの、ニューヨークの20~30代男性では本当に口髭が流行っているらしいです/筆者友人ら談〕

愛すべきコルテスのちょっと、いや、かなりいい話

コルテス選手率いるニューヨーク・ヤンキースは、残念ながらアメリカンリーグ優勝決定シリーズで宿敵アストロズ相手に0勝4敗と、まさかのスイープを喰らってしまいました。しかも、コルテスは晴れの舞台(4戦目)でケガのため、無念の途中降板となりました。ヤンキースのシーズンは終了してしまいましたが、来季こそヤンキースをワールドシリーズまで導くことができるか、ぜひ「Nasty Nestor」を見守ってくださいませ。

【追記:最後にほっこりした話】

今年の7月で初オールスター戦に選出されたコルテス選手ですが、試合後に長年の彼女にプロポーズをしています。

インスタグラムのキャプションには「親友にプロポーズしました (中略)  良い時も悪い時も互いを幸せにすることができ、苦しみも成功も共に経験できてありがたい」と綴じており、これだけの苦労人は支えられてこそ成功話を成し遂げられるのだなぁと。お二人の末永い幸せを祈っています!


プロフィール
KZilla(ケジラ)
ニューヨーク・ヤンキース、およびMLBの魅力をTwitter、note、ラジオなどで発信し続ける注目の野球アナリスト。ニューヨーク育ちの英語力を活かした情報収集力と分析力は、コアなファンからも高い評価を得ている。ヤンキースが敗退した今、心の拠り所は日本シリーズで激闘を繰り広げている東京ヤクルトスワローズの連覇と20歳の内山壮真になっている。Twitter:@TokYorkYankees、note:KZilla|note