野村克也(ヤクルト時代)、星野仙一(阪神時代)の2人の名将のもとで活躍し、「最強の二番手捕手」と称された野口寿浩氏だからこそ明かせる、レギュラー捕手と二番手捕手の本当の仲。さらに野村監督から叩き込まれたキャッチャー向きの性格や、野村監督・星野監督流から学んだ人心掌握術とは?

キャッチャー同士の仲はよくない?

二番手捕手という立場をたびたび経験した僕だから話せることですが、レギュラー捕手と二番手捕手の関係は正直に言って微妙なものだと思います。

レギュラー争奪戦はどこのポジションにでもありますが、キャッチャー以外は、どっちの打撃がいい、どっちの守備がうまい、どっちの足が速い……といった具合に、誰の目にも明らかなところがあります。誰に聞いてもほぼ同じ答えで、あとは監督がやりたい野球にマッチする選手を選ぶだけです。

一方のキャッチャーは、リードという目には見えにくい部分が重視されるため、そう簡単ではありません。だからこそ、キャッチャーは考えていることをライバルに話すことなどは基本的にしません。

僕のヤクルト時代でいえば、レギュラーの古田さんにあれこれと聞くことなどできませんから、「こうすればいいんじゃないだろうか」と推測しながら盗むしかありません。逆に自分独自の方法を思いついても、それは隠しておいて、試合でチャンスをもらったらときに実行するのです。

おそらく、どのキャッチャーでもそれは同じだと思います。逆にそうでなかったら競争に勝てません。そういう意味では、キャッチャー同士の仲はよくないです。話をすることもほとんどありませんでした。けれども、他チームに移籍したあとに、すごくフレンドリーに話かけてもらえることはあります(笑)。

ちなみに、これは僕が引退後、ヤクルトの二軍でバッテリーコーチをしていたときのことですが、若手捕手3人に、あえて打者の攻め方について話し合わせたことがあります。それぞれのキャッチャーがどんなことを考えているのか、参考になると思ったからです。まだ修行中の捕手であれば、このようなこともできます。

キャッチャーに適した性格とは?

よく、「どういう性格の人がキャッチャーに適しているのか」という質問をされます。僕自身は、そんなことを考える前の小学生時代からキャッチャーをしていたため、自分の言葉で答えを持っていませんでしたが、野村克也さんからは、「黒子に徹することができる人」といつも叩き込まれました。そのため、まったくそのとおりだと思っています。

そう言うと、野村さん自身、三冠王を獲るくらい大変なスター選手だったではないかという人がいるかもしれませんが、バッティングで目立つのはいいのです。それはキャッチャーとはまったく別の話ですから。マスクをかぶって座っているときには、しっかりピッチャーを盛り立ててあげられる女房役であれ、という意味です。

黒子とはどのようなものかを表現するなら、「打たれたら俺のせい、抑えたらお前のおかげ」と言える人、それをうわべだけではなく本心から言える人、ということでした。でも、よほど人間ができていないと難しいことです。

もちろん、まったく逆の性格で大成したりするケースもあります。自分の思いどおりにしないと気が済まないタイプ……あえて名前は挙げませんが、僕は何人かそういうキャッチャーが思い当たります。