NPB史上初の2度目の投手4冠・山本由伸

オリックス・バファローズを連覇に導いた山本由伸は、2022年シーズンも圧倒的なピッチングを見せて、史上初となる2年連続で投手四冠に輝き、沢村賞とMVPを獲得した。

ピッチングを見ると、今シーズンの7月9日のロッテ戦で更新された自己最高159キロの直球に、スプリットとパワーカーブといった球種があるため、対戦する打者は追い込まれたらお手上げ状態だったのは目に見えてわかった。これを裏付けるデータとしてみても、3球目までに追い込んだ打席では相手を圧倒しており、とりわけ三振割合は47.8%とリーグ平均を10ポイント近く上回っている 。[参照:https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/202212050071-spnaviow

さらに、細かい部分ではあるが、各球種の球速や変化量をうまくコントロールできることも強み。トータルで見ても、各球種をここまでコースに投げ分けられる精密さや、どのカウントでも立て直せる能力は、現在のNPBでNo.1と言ってもいい。まさに、機械のように洗練されたようなピッチングをしている。

今の実力を見ても、すぐにでもメジャーリーグでの活躍が見込める。今シーズンだけではなく、ここ2〜3年をトータルで見る限り、NPBからMLBに移籍する選手に見られる、日本球界で頭ひとつふたつ抜けている感じだ。順調にいけば間違いなく、メジャーでもトップクラスの成績を残せるだろう。

歴代最高の投手になるべき存在の佐々木朗希

千葉ロッテの佐々木朗希は、2年目で一気に飛躍した。

2021年に引退した鳥谷敬も「格が違う」とコメントしたように、投げるボール自体は、まさに歴代トップクラスではないだろうか。もともとの素材を見ると、若い頃の大谷ですら100の力を込めて150キロ後半を出している感じがあったなかで、佐々木の場合は8割ぐらいの力感で150キロ後半を出しているように見える。そのため、制球を重視したピッチングをしても、相手打者を制圧できるだけのポテンシャルを兼ね備えている。

このポテンシャルを考えると、水準レベルのシーズンを戦い抜く体力や、投球術を身につけることが重要である。早い球種をいつでも投げられるレベルにまで取得すれば、さらに伸びて球界トップクラスになれる逸材であることは間違いない。

能力を考えると、日本だけではなくMLBでもトップクラスになれる器の投手である。実際の成績を見ても、2021年シーズンの8月以降は、防御率1.22、奪三振率10.70と飛躍的に成績が向上。さらに、平均球速が151キロから154キロに上昇し、球威、制球とも申し分のない域にまで達した。変化球の被打率も0割台を記録。この時点で凄まじいパフォーマンスを見せた点を見ても、球界トップクラスのポテンシャルと言っていい。

2022年シーズンは、4月10日のオリックス戦で大記録を残した。それは28年ぶりの完全試合である。この試合では、13者連続三振や1試合19奪三振を記録、持っている力が解放された瞬間でもあった。次の試合でも8回まで完全試合を記録しており、このときの佐々木のパフォーマンスはMLBでも通用するレベルだったに違いない。

8月は疲れが見えたものの、9勝(4敗)、防御率2.02を記録。奪三振率は12.04、被打率.177と驚異的な数字を残した。高いパフォーマンスのピッチングの内容は、すでにメジャートップクラスの域にいる。体力さえついていければ、現在の山本由伸ぐらいの成績、またはそれ以上も期待できる投手だ。

そして、ゆくゆくは歴代最高の投手になれると思っている。来年はWBCもあるため、ダルビッシュ有・大谷翔平・山本由伸・佐々木朗希の夢の先発ローテーションにも期待していきたい。

21世紀で沢村賞を複数獲得した4投手

21世紀に複数の沢村賞を獲得した投手は、上記の山本由伸を除いても4投手いる。

まずは斉藤和巳だ。

2003年と2006年に沢村賞を獲得。特に2006年は、ライバルの松坂大輔に競り勝って獲得した。怪我や故障が多かったことからキャリアは短かったものの、勝率の高さや2006年のプレーオフの姿を見ても、まさにエースという名に相応しい投手だった。

投げているボール自体も、150km/h以上のストレートとスプリットを中心に、緩いカーブやスライダーをうまく組み合わせて相手を翻弄。この時代のトップだった。

次は田中将大だ。

田中に関しては、2013年に24勝0敗でチームをリーグ優勝・日本一に導いたシーズンがイメージとして強い。しかし、投げていたボールは、初の沢村賞を獲得した2011年が、キャリアで一番よかったと見ている。

2013年に関しては、NPBにおける「勝てるピッチング」の完成形といってもいいぐらい、ゴロアウトとピンチの場面でのギアチェンジのバランスが絶妙だった。ただ、2011年の場合は「魅せるピッチング」の要素もあり、球威とともに投げているボールは一番よかったと思っている。

また、田中の凄さは、2013年までにおけるNPBのキャリアやMLBのキャリアを見ても、自らのコンディションを最大限に活かせるパフォーマンスを俯瞰的に見たうえで、器用に熟すことができることだ。

キャリア全体を見ても、2016年を境目に平均球速は下降しているが、そのなかでもその試合におけるベストボールをうまく操り、打者との駆け引きのうまさや、タイミングを交わすテクニックも持ち合わせている。サイ・ヤング賞の候補として7位にも入った。

次に名前を挙げたいのが前田健太。

前田は2010年・2015年に沢村賞を獲得。NPB時代から安定したピッチングをしており、6年連続二桁勝利を記録。2010年からは毎年のようにタイトル争いをしていた。この前田は、NPB時代からスライダーが得意球としてある。NPB時代ではこのスライダーを軸に、緩いカーブやチェンジアップで抑えられていたが、メジャー移籍後はチェンジアップをさらに磨いてレベルアップした。

その結果、2020年にはサイ・ヤング賞の候補として2位に入った。トミー・ジョン手術を行ったので2022年は登板なし。来年の復活に期待したい。

そして、巨人のエース菅野智之だ。

菅野のキャリア全盛期であった2017、2018年の2シーズンを振り返る。2017年は得点圏に走者を置いた場面で、127人の打者と対戦して被打率.156という圧倒的な数字で、ピンチでの勝負強さを見せた。最終的には17勝5敗、防御率1.59などキャリアハイの成績を残し、最多勝と最優秀防御率の二冠を獲得。自身初の沢村賞にも輝いた。

2018年は、キャンプから新球種であるシンカーの習得に重点を置いていたが、それによって開幕から調子が上がらず、開幕2戦で自責点9という結果を受けてシンカーを封印。その結果、4月13日の広島戦では8回1失点10奪三振でシーズン初勝利。その後もさらに調子を上げていき、29回2/3連続無失点を記録した。最終的には15勝8敗 防御率2.14勝率.652、202回200奪三振の成績で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振の投手三冠と文句なしの2年連続沢村賞を獲得。

さらにクライマックスシリーズでは、自身初のノーヒットノーランを達成した。2017〜2018年の菅野のピッチングは、まさにエースと呼ぶに相応しい内容であった。相手打者への威圧感はもちろんのこと、要所の場面での力の入れ具合や、投球術のバランス感覚が素晴らしかった。

2017年のシーズンから打者を圧倒するオーラを醸し出すようになり、試合序盤はボールが緩くても要所でギアを上げていき、得点圏にランナーを出しても点を取られる気配が全く感じられなかった。さらには、三振を取りたい場面は三振を取り、併殺を取りたい場面は併殺を取る投球をして、高い水準で変幻自在だった。

具体的には、ストレートの質が一気に高まり、変化球も大きく曲がるスライダーとスラッターをうまく使い分け、パワーカーブやスプリットも組み合わせて完璧に近い投球を見せた。