年の瀬となる今だから振り返りたい2022年の思い出。ニュースクランチに登場していただいた方たちに2022年のベストブック、もしくはベストムービーを紹介してもらう「2022 My Best」。

ミュージシャンの高橋翔さんに、今年のベストムービーとブックを3つずつ選んでいただきました。

13人の命

〇Thirteen Lives - Official Trailer

2018年、タイ北部の洞窟で起きたサッカーチームの少年たちの遭難は、まだ記憶に新しいかもしれない。少年たちの救出を担うダイバーのハンパなさを、名匠ロン・ハワードが映画化した実録ドラマ。

題材が題材なので何度か映画化されているが、本作がベストでしょう。2時間半、ギリギリの緊張感をキープしたまま物語はドライブしていく。主軸となるイギリスのダイバーチームと取り巻くタイ政府、子どもたちの安否を思う家族、地域のボランティアの人々、それぞれの役目がしっかり描かれているため、長時間でも中だるみは一切なかった。

事実は小説より奇なりでは片づけられない重さがあるが、誰かの命を救っている男たちの仕事後には瓶ビールがよく似合う。

『スペンサー ダイアナの決意』

〇映画『スペンサー ダイアナの決意』予告編

ダイアナ妃が日本のワイドショーを賑わせていた時代。御多分に漏れず僕の母もダイアナのファンで、テレビに映る彼女を何度も見た記憶がある。

没後、「悲劇のヒロイン」という烙印を押され、人々の記憶に残ることになった彼女の孤独な闘いが、この映画では描かれている。全ての意思は抑圧され、360度監視の対象となる王室のなかで、ダイアナは徐々にストレスの臨界を迎える。それでも、子どもたちのために愛と自由を熾すため、走り出す姿はあまりにも美しい。

ガラスができる過程を覗くような儚さを覗かす主演クリステン・スチュワートに、ダイアナ妃の残像を見た。

『ポゼッサー』

〇『ポゼッサー』予告|Possessor - Trailer

ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『オンリー・ゴッド』という映画が好きだ。2014年、日本で公開当時ガラガラの劇場で鑑賞後、得体の知れないすごいものを見たなと、脳が恍惚感で満たされたことを覚えている。

ノワールな世界観のなかに徹底に排除されたセリフ、ミニマムな演出とインダストリアルなBGMがマッチする。北野映画でいうところ『ソナチネ』をハイブリッドに進化させた映像表現。『ポゼッサー』もまさに前述の系譜に位置する作品だ。

セックス以上の身体的コミュニケーションを、他者の人格に入り込むという超絶力業で魅せる演出は圧巻。

人は他者と接することで影響を受ける。人格形成というものは、その影響を受けて成り立っていく。他者との距離から自らを知り、自我というものが作られていく。気がついたら、こんなことを考えさせてくれた映画でした。