東京都は2022年12月に開催された第4回定例会で、新築戸建て住宅への太陽光パネルを義務付けする「改正環境確保条例」を成立させた。小池百合子都知事は「太陽光発電の整備などを大手住宅供給事業者などに義務付ける全国初の制度を掲げた」と誇らしげだが、実際のところはどうなのだろうか。日本のエネルギー・環境研究者である杉山大志氏が、東京都の進める政策「太陽光パネル義務付け」について語ります。

※本記事は、杉山大志:著『亡国のエコ -今すぐやめよう太陽光パネル-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

太陽光発電政策には問題が山積み

2022年5月24日、東京都は都内の新築住宅に対し、太陽光発電パネルの設置義務付け方針を決めました。それ以降、パブリックコメントの募集が行われ、設置義務化の準備が進められました。

同年9月20日、小池百合子都知事は所信表明で「環境保護条例」の見直しを図るとし、以下のように述べています。

「住宅などの新築中小建物に対する太陽光発電の整備などを大手住宅供給事業者などに義務付ける全国初の制度を掲げました」(令和4年第3回都議会定例会)

この都議会定例会で「ゼロエミッション東京」の実現をうたい「カーボンハーフ実現に向けた条例制度改正の基本方針」が示され、2022年12月に開催される第4回都議会定例会に条例改正案が提出され、15日に可決されました。大手住宅メーカー50社に対し、販売戸数の85%以上にのぼる太陽光パネル設置が義務化され、賃貸住宅を含む新築物件で大量に導入されることになります。

しかし今、太陽光発電には問題が山積しています。すでに明らかになっている問題だけでも、経済・人権・環境・防災・国防と、幅広い分野に及びます。

▲小池百合子都知事 写真:首相官邸ホームページ / Wikimedia Commons

経済については、普及促進のための事業者や建築主への補助金の原資に加えて、既存の発送電設備への負荷という形でも、国民経済への負担が発生します。端的に言えば、太陽光パネルは「二重投資」に過ぎないので無駄が多いのです。

人権の問題としては、中国製パネルの製造にあたって、新疆(しんきょう)ウイグル自治区の強制労働の問題が関わってきます。これは欧米では大問題なのに、日本ではまともに取り上げられていません。

環境問題も深刻で、導入が拡大するにつれ、景観破壊、土砂災害や廃棄物などの問題が明らかとなってきています。防災の問題についても、水害や火事などについて、特有の危険性が知られるようになってきています。

さらに近年、政府はサイバー攻撃やテロへの対応に取り組んでいますが、外国製の太陽光発電システムは、発送電のためのインフラに対する攻撃のリスクを高めてしまいます。

太陽光パネルの大量導入は直ちにやめ、ゼロベースで総点検をするべきです。

「150万円でも元が取れる」は本当にそうなのか?

東京都の新しい条例では、都内の新築住宅の半数強が太陽光パネル設置義務付けの対象になるとみられます。建築主の負担はどのようなものか、国土交通省の資料を見ると、150万円の太陽光発電システムを設置しても、15年で元が取れることになっています。

その試算を紹介しましょう。

▲「表A」政府試算、「表B」一般国民にとっての価値、「表C」国民の負担額

もともとはこのようなわかりやすい表にはなってはいなかったので、この表は筆者が作成しました。なお、小数点以下は四捨五入して丸めてありますので、厳密ではないことにご注意ください。

単位はkWh(キロワットアワー)です。これは、例えば100Wの電球を1時間つけると、消費電力量は100Wh(ワットアワー)になります。1キロワット(1000W)の電気を1時間使うと1kWhの電力量を消費したことになり、これが使用した電力量の基本単位となります。

さて、「表A」にある政府国交省の試算では、太陽光発電の年間発電量は61,321kWhです。そのうちの約3割にあたる1,840kWhが自家消費されます。それだけ電気を買わなくて済むということです。家庭の電気料金を1kWhあたり25円として自家消費量を掛けると、年間4万5548円が節約できることになります。

年間発電量の残りの7割にあたる4,292kWhは、電力会社に売電します。電力会社は、最初の10年は1kWhあたり21円という高い価格で買い取ることを義務付けられているので、売電分が年間約9万140円になります。11年目以降は1kWhあたり8円で買い取ってもらうことを想定して、これが年間で3万4339円になります。

このように、太陽光発電システムを設置する建築主は、自家消費分の電気代を減らし、電力会社に売電して収入を得ることができます。トータルすると、15年で158万1827円の収入になります。

国交省による試算では、確かに150万円の太陽光発電システムを設置しても、建築主は元が取れそうです。しかし、家を購入する人がみな元を取れるわけではありません。

太陽光発電のためには、日当たりの良い場所で、南向きに程よい傾斜になった広い屋根が望ましいのですが、そんな家を建てる余裕がある人はどれだけいるのでしょうか。

▲元が取れる新築戸建て住宅は一部だけ? イメージ:shimanto / PIXTA

一般の人が東京に家を買うという場合、たいていはギリギリの敷地に建蔽率(けんぺいりつ)や容積率等を考慮して、パズルを解くようにして家を建てます。屋根の向きも思うに任せない、日当たりの悪いところも多いなど、普通に家を建てるだけでも建築士は頭をひねります。

東京都の義務化によって、条件の悪い新築物件にまで太陽光パネルの設置を強行すると、設置費用の元が取れるどころか、建築主はかえって損をすることになるのです。

しかも、条件の良い家で設置して元が取れるという試算は、一般国民の巨額の負担に依存します。太陽光で作られる電気は、国民全体から見ると火力や原子力といった既存の発電方法に比べて経済性に劣ります。

太陽光発電は、日照により発電の量が左右されます。一方、産業や家庭では天気によらず、昼夜を問わず電気が必要です。太陽光パネルが発電しない夜間、あるいは日中でも発電量のほとんどない曇りや雨の日はどうするか。そんなときは、太陽光発電設備を設置している建物でも、電力会社から電気を買うことになります。しかし、その電気は火力や原子力などの既存の発電所が作っています。

つまり、太陽光発電設備をいくら造っても、太陽光パネルが発電できないときの電力供給を行える発電所が必要なのです。したがって、その発電所の建設費と運転維持費は別にかかり、太陽光パネルは必然的に“二重投資”になる、ということです。