戦力のシーソーゲーム:ヤンキースとメッツ、どっちが上?
ここまで敢えて触れてきませんでしたが、ひとつ疑問が生じませんか?
メッツが使ってきた金額はヤンキースのみならず、どの球団よりも遥かに高い、という事実はわかったものの、実際にはヤンキースとメッツ、どっちのほうが強いのか? という疑問です。まずは投手陣を見ていきましょう(簡略化の観点より先発投手にフォーカスさせていただきます)。
ヤンキースにはロドン投手、メッツにはバーランダー投手・千賀投手・キンタナ投手が加わったことにより、メジャーリーグ全体でも1~2位を争う先発ローテーションが、ニューヨークの両チームに揃ったとの声も多く聞こえるようになりました。Fangraphs社の2023年予測WARでは、ヤンキースがリーグ1位、メッツがリーグ3位の先発陣営を持っているとされています(2位はメッツの元エース・デグロム投手率いるテキサス・レンジャーズ)。
※WAR(Wins Above Replacement)とは:選手の打撃・投球・守備・走塁を総合的に評価し、選手の貢献度を理論値(チームの勝利数)として算出する指標。本記事で取り上げているFangraphs社算出のfWAR、及びBaseball Reference社算出のbWARがMLB関係者間でも最も信憑性が高い指標とされており、多くのメディアで取り上げられている。簡潔にまとめると、WARの高いほうが優れているということにはなるものの、0.5WAR前後は誤差の範囲内とされているほか、WARのみですべての選手のすべての価値を正確に網羅できるわけではないため、あくまでもひとつの参考値として扱うべきであり、本記事でも参考値として適宜参照いたします。
実際、ヤンキースは(全員がポテンシャル通りの投球をできれば)エース級の先発が5枚揃っている状態であり、贔屓目なしでチーム史上最強ローテーションとなる可能性もあります。メッツもシャーザー投手、バーランダー投手合わせて計6回のサイ・ヤング賞受賞経験がある超豪華な二枚岩を始め、日本で長年にわたり無双した千賀投手、他チームでエース経験のあるキンタナ投手、カラスコ投手と(故障リスク以外は)隙なしと言えるでしょう。強いて言うのであれば、ヤンキースのほうが少し勝ると言えるでしょうか。
続いては野手を見てみましょう。
野手陣についてもFangraphs社予測ではメッツがリーグ2位、ヤンキースが5位相当の戦力を見込まれており、いずれもリーグトップの戦力が揃っているとされています。ヤンキースにはジャッジ選手という圧倒的なスーパースターがいるものの、メッツはリンドーア選手、ニモ選手、アロンソ選手、マクニール選手などスター選手がバランス良く揃っており、ヤンキースの実質一強状態より盤石と言えるのではないでしょうか。
そして2つを合わせた、チーム全体の見込みではメッツが54WARで1位、ヤンキースが53WARで2位の予測値となっています。文字どおりリーグの2強になる見込みとされていますが、逆に2チーム間に大きい差はないとされています。メッツのほうがお金は使うため一見より華やかには見えるものの、結局は両チームとも同じくらい強いんです。
ニューヨーク「の」主役、ではなくニューヨーク「が」主役
となると、結局「ニューヨークの主役はどっち?」という質問の答えは「どちらかが独占」ではなく、「ヤンキースとメッツの双方が主役として、熾烈な勢力争いを繰り広げる」となるでしょう。ゴジラvsコング並みの名勝負が毎年毎年繰り広げられれば、ニューヨークの野球ファンの本望だと思います。
そしてヤンキースとメッツの新生ライバル関係を活かし、これからはニューヨークを中心にメジャーリーグ全体が盛り上がっていけば最高だと思います。同都市でこれだけレベルの高い2チームが揃うのは稀に見ることなので、両チームが今後も懲りず資金投下を続け、スター選手勢揃いのチーム同士が活躍し続ければ、もっともっとベースボール・タウンとして鼓動していくでしょう。
そして最終的には他チームもヤンキースやメッツといった「チーム」を敵(かたき)にするのではなく、ニューヨークという「街」に立ちはだかるべく、積極的な補強に徹し、リーグ全体のレベルが上がっていくことを期待したいです。2023年、ニューヨークが主役のメジャーリーグベースボールが見られるでしょう。