女性の側には「負け犬」論争があった

今から16年ほど前、酒井順子さんのエッセイ『負け犬の遠吠え』がベストセラーになり、女性たちの間で「負け犬」論争が繰り広げられた。「負け犬の遠吠え」という言葉は2004年の流行語大賞トップテンにも選ばれた。

負け犬論争とは--。

日本では結婚・子育てこそが女性の幸せだという価値観の強かった中、「30代以上で子供のいない未婚の女性」をこの本は自虐的に「負け犬」と呼び、いかに勝ち犬の女性や社会から理不尽な圧力を受けているかにため息しながら、逆説的に負け犬の楽しさや自由を綴った。

すると、結婚や子育てこそが女性の幸せだと疑わない人たちからの反発が沸き起こる。

「負け犬」とへりくだった振りをしながら、結婚や子育てに重きを置く女性を小バカにしている、とか。こういう自己中心的な人たちが子供を産まないから、日本は少子化するんです、とか。オッサン世代の男たちからの反発も大きかった。

酒井さんが書いたのは、どっちが勝ちか負けかではなく、価値観が多様化しているんだからお互いに認め合いましょうよ、という提案だったのに。

当時ぼんやりと、女性は子供を産むか産まないか、仕事をするかしないかの線引きが明確だから論争になりやすいんだろうなあと、蚊帳の外の負けオスとして考えたものだった。

これら女性の生き方論争に対して男の側は、冒頭に見たように女性より生涯未婚の数は多いのに、実態があまりにも無視されすぎてきた。当の男たちも身を隠して、自分を語らない。好きなことだけやって生きてきたら、おじぼっちになっただけで、結婚相談所やマッチングアプリに興味のない生涯独身男は山ほどいるのに。

男の側からの宣言

だから元号も令和になった今、ぼくがひっそりと宣言しよう。家庭も子供も持たず、かといって仕事一筋に打ち込むわけでもなく、社会のはみ出し者として生きてきた男にだって、人並みの人権はあるはずだ。

当方、昭和37年生まれの58歳。松田聖子や、とんねるずや、カール・ルイスと同学年。生涯独身のまま、この先もずっとひとりで生きていくであろう未来予想図が見えた今、オレたちの生き方、いや、オレの生き方を隠さずに語ってみよう。ブレーキランプを点滅させる車は持ってないから、ヘルスメーターのLEDを5回点滅させて「コ・ド・ク・ジョー・トウ」と、開き直ろう。

はぐれザルのおひとり人権宣言 イメージ:PIXTA

「負け犬」を男に置き換えるなら「はぐれザル」だろうか。

群れからはぐれたオッサンのおひとり道は、気楽でいいぞ。わびしく見えるかも知れないけど、それ以上の自由があるぞ。正しく突き詰めれば、家族を持った人たちより、楽しいセカンドライフ、明るい余生が待っているはずだ。

これは「はぐれザルのおひとり人権宣言」であり、その先にある「おひとり達人」への道を、これからこの『NewsCrunch』で記録していきたい。生き方と同じで、ノープランだから適当に……。


独身中年息子による介護奮闘記。BEST T!MESでも好評を博した「母への詫び状」が、ペンネームだった著者が実名を明らかにし、「介護幸福論」として再スタート。著者は“王様”として業界に名を轟かす競馬ライターの田端到さん。記憶の糸をたどりながら6年間の日々、そこで見つけた“小さな幸せ”を綴っていきます。