昨年から世界中で電気やガスなどのエネルギー価格が高騰しているが、ドイツでは2030年までに消費電力の大半を再生可能エネルギーへとする準備を加速させると発表した。しかし、その裏側には開発途上国に大きな負担を強いている現実がある。このあまりに身勝手な先進諸国のエネルギー政策に、ついに反逆する指導者も現れてきた。日本のエネルギー・環境研究者の杉山大志氏が、先進国によって搾取されている途上国という現実に踏み込みます。

※本記事は、杉山大志:著『亡国のエコ -今すぐやめよう太陽光パネル-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

先進諸国により繰り広げられるアフリカの土地争奪戦

開発途上国の化石燃料利用を禁止したうえで、これからは経済開発を再生可能エネルギーで実現しろと命じるのは、発電技術の物理的現実を無視しています。のみならず、何十億人もの貧困の存在を放置してよいという、恐るべき傲慢さを示すものです。

サハラ以南のアフリカでは、6億人が電気を持たず、8億9000万人が薪炭や動物のフンなどの伝統的燃料で調理をしています。調理用の化石燃料を利用できる人は僅か14%です。

じつは、アフリカには膨大な天然ガスがあります。600兆立方フィートの天然ガスが埋蔵されており、その3分の1はナイジェリアにあるのです。これはアフリカのために開発すべきであり、先進国は全力で支援するのが道義です。

▲先進諸国により繰り広げられるアフリカの土地争奪戦 イメージ:Kloeg008 / PIXTA

経済開発のためには、各国政府はエネルギーインフラに大規模な投資を行う必要があります。発電・送電・道路・冷蔵施設などに対する投資を行えば、企業は多くの優れた雇用を創出し、生産性を高め、幸福と人間の尊厳を高めることができるのです。

これは貧しい人々にとっての、自然災害への防災を助けることにもなります。教育・医療・住宅へのアクセスが改善された人々は、干ばつや台風にうまく対処できるようになるからです。

実際に、世界の自然災害による死者数は、過去100年間に激減しました。今後、気候変動が起きるかどうかはともかく、今すぐにでも起きうる災害に備えることが優先事項で、気候変動への適応ということも、その延長線上以外にはありえないのです。

化石燃料は農業にとっても必須です。アフリカの単位面積あたりの作物収量は、アジアの10分の1にとどまっています。この収量を上げ、一定の耕作可能な土地でより多くの人々を養うためには、アフリカの農家はより多くの肥料を使わねばなりません。化学肥料の標準的な製造方法は、天然ガスを燃料とするものです。

同様に、大規模な灌漑(かんがい)にも化石燃料が必要です。それにより、より少ない土地でより多くの人々に食料を供給し、森林破壊を減らし、近代農業への移行を可能にすることができます。

化石燃料はあらゆる経済開発の動力です。道路の建設、食料やワクチンなどの医薬品を保存するための冷蔵システムの構築に必要です。人々が地方都市から都市へ移動するためのガソリンの供給も必要です。

19世紀に大陸横断鉄道が誕生したとき、アメリカは先住民から奪った土地を鉄道会社に与えました。同様に地球温暖化への対応も、新たな政策の実行のために広大な土地を使用することがあります。すでに途上国を含む世界各地で土地争奪戦が繰り広げられています。

例えば、CO2削減のための植林に利用可能な土地の多くは貧しい国にあり、その国のなかでも政治的な力の弱い人々が住んでいます。そのため、彼らは基本的なニーズを満たすための土地を、世界で最も権力を持つ国の強力な私企業と奪い合うことになりかねないのです。

このような事例は、すでに東アフリカで実際に起きています。ノルウェー企業が東アフリカの森林をカーボンオフセットとして使用するため、土地を購入し保全しようとしました。2014年、ある研究機関は、このときに何千人ものウガンダ人やモザンビーク人、タンザニア人に強制立ち退きと食糧不足をもたらしたと報告しています。

アフリカ大陸が天然資源を開発することを許可すべき

また、北アフリカのモロッコには、ヌール・ワルザザート複合施設という世界最大の太陽光発電所がありますが、国民の多くは電力供給を受けていません。太陽光発電は、アフリカの人々に電気へのアクセスをある程度は与えるかもしれません。しかし、北アフリカの多くの大規模な再生可能エネルギープロジェクトは、欧州に電力を供給するだけで、サハラ以南のアフリカの人々は電力の恩恵を受けられない事態になりそうです。

▲ワルザザート太陽熱発電所 写真:Richard Allaway / Wikimedia Commons

アメリカ大陸では、北米西部のカリフォルニア州が再生可能エネルギー導入に熱心ですが、その南に隣接するメキシコのバハ・カリフォルニア州から電力を輸入しています。アメリカの送電網がメキシコや中米とのつながりを強めていくと、インフラが弱く頻繁に停電の起こる中米からアメリカに電力が輸出されるという、あべこべな事態になりかねません。

次世代エネルギーとして注目される水素への転換でも事情は同じです。

ドイツは「国家水素戦略」に沿って、アフリカ南部の国・アンゴラから水素をアンモニアに転換して輸入する計画を発表しました。2022年6月にはアンゴラの国営石油会社とドイツ企業とのあいだで設備建設の覚書を締結しています。2024年には工場が稼働するといいますが、アンゴラの貴重な電気を、ドイツでの水素エネルギー供給という贅沢のために使うのは正しいことなのでしょうか。

アンゴラでは水力発電は重要で、電源構成のおよそ半分を占めています。そこで作られる貴重な電気は、いまだスラムの残る貧しいアンゴラの経済開発のためにこそ使うべきものではないのでしょうか。

先進国の「気候植民地主義」に対して、叛逆する指導者たちも現れています。2022年6月、アフリカの内陸国ニジェールのモハメド・バズーム大統領は、次のように述べています。

アフリカは、2022年末までに外国の化石燃料プロジェクトに対する公的融資を打ち切るという西側諸国の決定によって罰せられている……我々は戦い続けるつもりだ。

アフリカ大陸が天然資源を開発することを許可すべきだ。100年以上にわたって石油とその派生物を搾取してきた者たちが、アフリカ諸国が資源の価値を享受するのを妨げているのは、率直に言って信じがたいことだ。

バズーム大統領の言う通りです。天然の恵みで利用可能なエネルギー源を利用することは、すべての主権国家の譲れない権利だと思います。