昨年、東京都が「太陽光パネル義務化」の条例を成立させた。 太陽光パネルの世界に占める新疆ウイグル自治区の生産量シェアは、じつに45%に達するといわれている。そして、この新疆ウイグル自治区において、中国共産党政府による人権侵害が行われていることは、いまや国際的に認知されている。日本のエネルギー・環境研究者の杉山大志氏が、東京都の進める政策「太陽光パネル義務付け」について語ります。

※本記事は、杉山大志:著『亡国のエコ -今すぐやめよう太陽光パネル-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

米国ではウイグルで製造されたモノの輸入は原則禁止

太陽光発電システムの導入をめぐっては、太陽光パネルの製造にまつわる人権問題も広く認知されています。

いま世界における太陽光発電用の多結晶シリコンの80%が中国製です。2022年7月7日に国際エネルギー機関(IEA)が発表した報告書では、中国での製造が8割を超えるとして、サプライチェーンの偏りが指摘されています。さらに、中国のシェアは近い将来に95%に達するとも指摘されています。

▲ソーラーパネルの設置された住宅地 写真:metamorworks / PIXTA

現在、中国製パネルの半分は新疆ウイグル自治区における生産であり、世界に占める新疆ウイグル自治区の生産量シェアは実に45%に達します。そして、その生産地である新疆ウイグル自治区において、中国共産党政府による人権侵害が行われていることは、国際的に認知されています。

2022年5月24日、米国の「共産主義犠牲者記念財団(Victims of Communism Memorial Foundation)は、中国共産党政府によるウイグル人迫害の新たな証拠として「新疆公安文書」を公表しました。新疆公安当局のシステムへのハッキングで流出した機密文書や膨大なデータのほか、3000人近くの収容者の写真がまとめられています。文書には収容所から逃亡しようとする者に対する射殺命令、殺人許可なども含まれます。

このジェノサイドが、政府首脳部の指示によるものであることも明らかになりました。英国とドイツの外相は中国を非難し、中国の王毅(おうき)外相に調査を要請しています。中国政府はこのウイグルでの人権侵害を「完全な嘘」と呼んで否定していますが、もはや欧米でそれを信じる国はありません。

新疆ウイグル自治区での少数民族の強制労働は綿花栽培などでも知られていましたが、太陽光パネル生産にも強制労働の関与が報告されています。アメリカのコンサルティング会社ホライゾンアドバイザリーによる報告や、英語圏メディアの報道で注目を集めました。多結晶シリコン製造で世界上位の企業をはじめとする多くの中国企業が、「労働者の移動」プログラムに参加していたのです。

欧米の太陽光発電関係企業は、米国の「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」や、それに追随するであろう諸国の規制への対応を検討しています。すでに、米国の大手電力会社「デューク・エナジー」やフランスの「エンジー」など、175の太陽光発電関係企業が、サプライチェーンに強制労働がないことを保証する誓約書に署名しました。

米国で2021年末に成立した「ウイグル強制労働防止法」は、2022年6月21日に施行されました。太陽光パネルに限らず、ウイグルで製造された製品・部品の輸入は、すべて原則禁止です。

2022年8月末には国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)からも、新疆ウイグル自治区での深刻な人権侵害についての報告書が公表されました。国際犯罪である「人道に対する犯罪」にあたる可能性を指摘しています。これは中国の強硬な反対を押し切って発表されたものでした。

欧州においても、EUの欧州委員会は、新疆ウイグル自治区の人権侵害を念頭に、強制労働による製品をEU市場から排除するため、法制定を目指すプロセスを開始しました。EUでの検討は時間がかかりますが、2年後には法令が施行される見込みです。強制労働が関与したとされる製品は調査対象となります。調査の結果、判定が“クロ”であれば、欧州への輸入は禁止され、また域内での流通もできなくなるということです。

太陽光パネル低廉化の裏にある「強制労働」

新疆ウイグル自治区での人権侵害がますます明らかになるに従い、我が国も2022年2月1日の衆議院本会議で「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」を採択しました。

ただし、審議過程での与党内の調整の結果として、「中国」「共産党」「人権侵害」「ジェノサイド」「非難」といった肝心なキーワードはことごとく抜け落ちてしまい、“腰砕け”の内容になってしまいました。どうにも情けない話ですが、何も決議しないよりは良かったと思うほかありません。

さて、東京都は太陽光パネルの設置を義務付けする条例を成立させました。これは事実上、ジェノサイドへの加担になってしまいます。

東京都の条例施行は2025年4月、つまり約2年後となっています。しかし、世界が問題視するなか、逆にその導入を義務付けるというのはどういうことでしょうか。

一般住宅への太陽光パネル義務化の話は、もともと国交省で検討していたところ、無理があるとして見送られたものです。小池都知事は、政府がやらないなら東京都がやる、という“チャンス”だと張り切っているのかも知れません。しかし、都知事はむしろ日本政府に対し、新疆ウイグル産製品の輸入禁止を訴えるべきです。

そうすると太陽光パネルの値段はずいぶんと高くなりますが、仕方がないでしょう。住宅用太陽光発電設備は、1990年代前半に登場して以来、価格が安くなり続けてきました。しかし、太陽光パネルが安くなった裏には、強制労働というおぞましい実態があったのです。それにもかかわらず、行政が国民に莫大な負担を強(し)いてまで、太陽光パネルを導入すべきなのでしょうか。

▲新疆ウイグル自治区 カシュガル旧市街 写真:Dayo / PIXTA