あーりんからの大抜擢に見事に応えた愛来
横浜アリーナでシンデレラの座に惜しくも届かなかった愛来。
バックステージで彼女が大号泣したことは前回、詳しく書いたが、その涙の裏にあったのは、今回だけの悔しさだけではなかった。
2019年6月23日。
場所も同じ横浜アリーナで、愛来は大きなチャンスを掴んだ。
その日はももいろクローバーZ・佐々木彩夏のソロコンサート『AYAKA NATION 2019』が行なわれていた。毎年、佐々木彩夏はバックダンサーとして後輩たちを登用してきたが、「演出家・佐々木彩夏」は単なるステージの添え物ではなく、ちゃんとバックダンサーもキャラが立つようにさまざまな工夫をこらしてくれる。しっかりと役柄を与えてくれたり、自分よりもバックダンサーが目立つ局面を作ってくれたり……とにかく、自分のソロコンに参加することで、後輩たちが「得」をするような流れを作ってくれていた。
そして、昨年はその傾向がより強烈な形で打ち出された。
ソロコンサートとはいえ、佐々木彩夏が衣装チェンジをするときは、どうしても「主役」がステージから数分間、消えなくてはいけない。通常はその場を幕間の映像でつないだりするのだが、世界観を大事にする佐々木彩夏は「ステージ上の流れを止めたくない」と、それ以外の方法を模索し、その結果、自分の“化身”をステージに残して、ショーを続けてもらう、という演出をチョイスした。
愛来はその“化身”役に選ばれたのだ。
たったひとりでステージに残り、1万人以上の大観衆の前に立つ。
森の中を彷徨(さまよ)う少女の役なのだが、特段、そういった説明があるわけでもなく、もっといえばセリフもない。動きと表情だけで観客にシチュエーションを伝え、佐々木彩夏がステージに再登場するまで、場の空気を変えないようにしなくてはいけない。大チャンスではあるが、かなりの難役でもあった。
この起用について、佐々木彩夏は語る。
「どうしてもこの演出でやりたかった。でも、2~3年前だったら『ここも私がやる!』と言っていたかもしれない。何年も一緒にやってきたから、じゃあ、後輩に任せようという信頼感もできたし、私の中でもね、ちょっと前までは『ここで後輩がすごく目立って、私が追い抜かれたらどうしよう』という不安があったんだけど、いまでは『せっかくだから私より目立っていいよ!』と思えるぐらい余裕が出てきた。だから、すごくいい形で出来たんじゃないかなって思う」
大抜擢を受けた愛来は、見事にその期待に応えてみせた。
1万人を魅了する表現力。しかも、その1万人はほとんど佐々木彩夏を見に来たファンなのだ。そういう人たちの視線をキープしつづけるというのは、相当、大変なこと。セリフもなければ、歌声もない空間で、これまで培ってきた表現力が一気に開花した。