影響を与えた本・映画・音楽

――さっき向田邦子さんのお話をいただきましたが、小説に限らず、ご自身に影響を与えた、表現や作品についてお聞きしたいです。

終電 もともと、小説よりも音楽や映画のほうが好きだったんです。中学生くらいの頃は、THE BLUE HEARTSとか銀杏BOYZとか宇多田ヒカルをよく聴いていました。映画だと岩井俊二監督や山下敦弘監督。小説では綿矢りささんなどが好きです。

――なるほど。この本を読んでいて、終電さんのイメージでプレイリストを作って欲しいなって思いました。

終電 やってみたいですね。

――先ほど、この本を読んで“自分にも書けそう”って思う人を多く生むんじゃないかと言ったのですが、ヒロトさんも前にTHE BLUE HEARTSを“自分でもできそう”と思ってほしくてやった、とおっしゃっていました。

終電 ヒロトさんと私を同列に語られると恐縮してしまうのですが、でも私もYouTuberを見てると、“これ私にもできそうだな”と一瞬思ってしまうことがあるんです。

――ありますね(笑)、たしかに。

終電 あるんです。でも、たぶんできないんですよ。簡単そうに見えても実際にやってみるとすごく難しいことってたくさんあるんですよね。まず、カメラに向かって1人で喋るということが、私含め多くの人にとってかなり高いハードルのはずで、それを軽々と越えられるというのも一つの才能だと思います。そしてそれを越えた先にも、おそらく私には想像つかないようなハードルがたくさんある。だから何かの作品に触れて“これだったら自分にもできそう”と思うのは大半は勘違いなんじゃないかなと。でも、そう思ったことで気軽にチャレンジできるのは良いことかもしれないですね。

「終電さんは天才かもしれない」

――終電さんは言葉、というのを特に大事に思っていて、信じているように感じるのですが、他人から言われた言葉で印象に残っているものはありますか?

終電 うーん、本には書いてないのですが、もともと大学時代に別名義でライターのアルバイトをしていたんです。そこの編集部の編集長の方に「終電さんは天才かもしれない」と言ってもらったことがあって。

――おー! すごい!

終電 そのときに、私はこういうことで人に認めてもらうべきなのかもしれないと思ったんです。“自発的に頑張って作ったものを、褒めてもらう”ということを増やしていくべきだな、と。その方が本気で言ったかはわからないですけど、私が天才かどうかにかかわらず、こういう認められ方をされるとこんなにうれしいものなんだって知れたのが大きかった。そもそも受け身なので、それまでは自ら積極的に何かをやって褒めてもらった経験があんまりなかったんです……すみません、この話あんまりおもしろくないですね、やめましょう。

――そんな! 起承転結の転くらいまでいってたのに!(笑)

終電 いや、あまり面白い話じゃないなと思って(笑)。

――この話を深堀りしていくと、終電さんの幼少期まで聞きたくなってしまいそうです。

子どもの頃は勉強はできたし、読書感想文のコンクールで賞をとったりとか、そういうことでは褒められました。でも、それらはやらなきゃいけないことだからやっていただけだし、たまたま得意だっただけ。そういう部分を褒められても、うれしいと言えばうれしいですけど、自発的にやりたいと思って頑張って作ったものを褒めてもらったのはそれが初めてで、それまで感じたことのない、すごく満たされた気持ちになりましたね。

――最後に、終電さんの2023年の展望をお聞きしたいのですが、書くことと、プライベート、どちらでも結構ですので、お聞かせいただけますか?

終電 書くことに関しては、小説を書きたいと思っています。プライベートでいうと、生活をちゃんとしたいです。今までは基本的な生活をおろそかにしてきたので、これからは自分なりの丁寧な暮らしを追求してみたい。その過程を書いていくのもいいかもしれないと思っています。


プロフィール
絶対に終電を逃さない女
1995年生まれ。早稲田大学文学部卒業。大学時代よりライターとして活動し、現在はエッセイを中心にWebメディア、雑誌、映画パンフレットなどに寄稿している。本作『シティガール未満』が初の単著となる。Twitter:@YPFiGtH、note:絶対に終電を逃さない女