NMB48を卒業して4年。声優・イラストレーター・小説家とマルチな活動で知られる三田麻央が、女優としての主演舞台『INDESINENCE Case:Beautiful Vermilion Ways』がスタートした。自分の父親を騙した詐欺師と対決する復讐劇。内容こそシリアスだが、稽古場の雰囲気は常に明るいとにこやかに話す。ちなみに主演と聞いたときは、プレッシャーとガッツポーズが一緒だったそう。
オタクで名を馳せ、インドア派を自認するが、周囲を気遣い、皆を笑わせ、常に笑顔を絶やさない社交的なタイプ。それもこれも、なんでも自分でこなそうと独りよがりになりがちだった思春期を、NMB48という素晴らしいグループ、仲間と過ごせたからだとインタビューで振り返る。
しんどかったけど、なくていいことなんて何一つなかったアイドル時代。アイドルの実情を熟知しているからこそ、今後は夢を後押しする仕事もしてみたいと前向きだ。
重い世界観に入りこみ過ぎないよう舞台袖ではボケ役に
――現在、舞台の稽古中だそうですが、どんな作品になりそうですか。
「お話自体は復讐劇なので、けっこう殺伐としていて。設定が1970年代ということもあり、場末のバー感が漂うようなアウトローな雰囲気です。でも、キャスト同士は本当に素敵な方ばかりで、仲が良くて。その温度差に風邪を引かないように踏ん張っています(笑)」
――言葉のチョイスが独特ですね(笑)。
「ありがとうございます。私が演じる南上宮陽子という役は、1本の糸を常に張り詰めたようなキャラクターなんです。自分の仇を前にして、復讐するために強くあらなきゃいけない。一度そこに入ってしまうと、もうず〜んとなってしまうから、はけたときに“いかにボケられるか”みたいなことを稽古場でやっていて、そこで帳尻を合わせている感じがあります(笑)。作品の世界観にどっぷり入りこみすぎてしまうと、本当にしんどくなりそうで」
――主演ですから、現場の雰囲気など、気をかけているのでは?
「こんな私に応えてくださるような方ばかりで、日々、皆さんが作り上げてくださった舞台についていくのが必死って感じです。共演者の方々が私なんかよりもお芝居の経験があり実力のある方ばかりで、演出家さんも舞台を長くやられている方なので『いつも教えていただいて、本当にありがとうございます』という気持ちです」
――主演のオファーを聞いたときは?
「ガッツポーズと冷や汗が一緒に出ていました。“よっしゃ! たら〜っ”みたいな(笑)。舞台でのお芝居はこれまでも経験させていただいていますが、ここまでガッツリ、シリアスな演技を求められたことはなかったし、主演もまだ2回目。映像や舞台で経験されている役者さんたちのなかで主演を張るというのも初めてです。
自分が迷惑をかけるわけにはいかないから、どうやり遂げるのか。人とは違うところで補うにはどうすればいいんだろう。台本の解釈を始め、やれることは死ぬほどあるけれど、それができるかどうかもわからなかったので、頑張るしかないって思いました。基本、私の性格上、自分に対して納得できることがなくて。
周りが褒めてくれても、“いやいや、あそこはああだった”って思っちゃうタイプなので、終わってもきっと、“もっと、ここはこうできただろうな”ってなると思うんです。ただ、そういったものを皆さんにお見せするわけにはいかないから、『完璧だ』って言い聞かせています。できるかは自分のこれから次第。あと二週間の稽古にかかっています」
演じる陽子役は思春期の頃の自分のよう
――陽子というキャラクターについて、もう少し教えてください。
「ずっと緊張の糸が途切れないキャラクターと先ほど言いましたが、まるで思春期の頃の自分を見ているような感覚になってしまうんです。語弊があるかもしれませんが、すごく似ているところがたくさんあります。私も昔から、身体的にも心理的にも強い女性に対して憧れを抱いているのでわかりますが、強くありたいがゆえに孤独を選びがちになってしまう。
一人でなんでもできちゃうから、なんでも一人でやってしまう。助けてくれる人は周りにたくさんいるから、よりいろんな意見をくんで、協力しあったほうがいい。でも彼女は、そんなときでも『自分でできるから』って言っちゃうようなタイプ。劇中でも描かれますが、それは彼女の過去があってのこと。そうならなければ生きていけなかった現状がある。
その辺りはとても巧みに台本に描かれています。演出家の佐藤信也さんが書かれた台本が本当にすごくて、読み解くほど“こんな伏線があったんだ”“この台詞にはこんな意味が込められていたんだ”とたくさん出てくるんです。演じてはいるんですけど、まだまだ陽子のことをちゃんとわかっていないのかなと思う瞬間もあるくらいです。本番を通して、観客の皆さんと一緒に発見できていければと思っています」
――三田さんも思春期の頃は人を寄せ付けないようなタイプだったんですか。
「ジャックナイフでとがっていました(笑)。周りにバチバチするようなタイプではなかったんですけど、“人に頼る=弱い=人に迷惑をかけてしまう”っていう思考があったから、『全然、大丈夫。自分でできます』と言って、なんでも自分でやろうとしていました。グループ時代は特に思春期ということもあり、なんでも“自分で”って思いすぎて、一回パンクしちゃったことがあったんです。
まだ10代で子どもでしたし、どうしたらいいのかわからなくて、いきなりみんながいる前で泣いちゃったんです。そのときにメンバーがすごく力になってくれて。女性グループというと、“内情はドロドロしているんじゃないの?”って思われがちですけど、そんなことはなくて。
しんどいときには、ちゃんと心から心配してくれて、うれしいときは本気で一緒に喜んでくれる人たちが私の周りにはたくさんいました。おかげで私もたくさん救われたので、陽子にもそうなってほしいという思いも込めて、演じさせていただいています」
――きっと成長を遂げるんでしょうね。
「見に来てください! 果たして、どうなるか(笑)。私も初めてやるような、舞台ならではの演出がたくさん組み込まれています。物語の尺は大体2時間弱、1時間50分くらいなんですけど、ものすごい情報量なんです。ものすごく詰まっていて、“この台詞って、この速度で進むんだ!?”“この台詞は台本を読んだだけではわからなかったけど、こうやって交差していって、結果的にこのシーンで出来上がるんだ!?”って、私も現場に行って初めてわかることがたくさんあって。
実際に目にしていただくと、舞台の楽しさを実感していただけると思います。あとはアクションシーン。自分の手足を使って闘うシーンがあるんですけど、私自身、武闘は初めてなので、めちゃくちゃ練習しています。そこも見ていただきたいです。強い女性が好きで、殺陣とか大好きなんです。去年の夏に、お芝居で殺陣をやらせていただいたときもすごく楽しかったので、またアクションをやりたいと思っていたところにこの作品で。楽しく必死に殺陣師の方に食らいつきながら、やらせていただいています!」