息子の保育園でネタ披露
やがて自我が芽生えて、イヤイヤ期に入る。それはそれでかわいいものだと思った。
一歳半を過ぎた頃には、世間はコロナ一色でどこにも行くことができなかったから、近所に住んでいる事務所の先輩の藤井ペイジさんに声をかけて、パパママ芸人が集まって子供を遊ばせていた。
そんなときにも、俺が他の子を抱っこしていると、俺のほうに駆け寄って、膝のあたりをギュッと小さな手で抱きしめなる。そして俺の顔をじっと見る。
「僕のパパだよね。なんで他の子抱っこしてるの?」
そんな寂しそうな顔をしているのを見たら、胸がギュッとなってしかたなかった。
「パパ抱っこ」
「ないない」
「あんと (ありがとう) 」
息子はどんどん言葉を覚えていった。三輪車にも乗れるようになり、ストライダー(ペダルがない二輪車)にも乗れるようになった。日々の成長が楽しかった。
息子が3歳になり、お喋りも上手にできるようになってきた頃のことだ。息子の通っていた保育園の夏祭りがあった。その数週間前に保育園の先生からお願いをされていた。
「次の夏祭り、みんなでいろんな出し物をやるんですが、最後にお父さんにネタやってもらえないでしょうか?」
普段からとてもお世話になっている保育園だし「別にいいですよ」と返事をした。夏祭りは思ったよりも盛況で、多くの保護者が駆けつけていた。ステージに見立てたホールではいろんな出し物があり、最後は俺の出番だ。
「園児のお父さんにお笑い芸人さんがいらっしゃって、今日は特別にネタをやっていただけることになりました! どうぞ!」
リーゼントにロカビリーファッション、いつもの戦闘服に身を包んだ俺は、いつもと同じテンションでみんなの前に登場する。ネタはR-1決勝でもやったツイストを踊りながらの「お前誰だよロックンロール」で、保育園の先生から父兄の方まで大いに盛り上がってくれて、拍手喝采で無事に終わることができた。
ステージが終わったあとは、保育園の先生や保護者の方々に「面白かったです!」「さすがプロだと思いました!」と声をかけていただき、久しぶりに手応えを感じていた。どうだ、パパはすごいんだぞ。
保育園から帰り道。手をつないだ息子が俺にこう言った。
「パパが夏祭りで踊るの恥ずかしかったぁ」
3歳の息子にしたら、突然、自分の親が大勢の人前でツイストを踊り始め「フ~!」と叫び出すものだから、みんなに笑われていると思ったようだ。
違うんだ、息子よ。笑われてたんじゃない、笑わせてたんだ!
だが、もし自分の父親が人前でツイスト踊りながら「フ~!」とかやってたら、どう感じたのだろう。きっと恥ずかしかったことだろう。改めて芸人てのは不思議な職業なんだなと思った。
(構成:キンマサタカ)